きっと、明日も君がすき。
そして、前に進むんだ。
『…ね、志桜里』
「ん?」
『あの時は何も言わなかったけど、あの後、佐田、引きずってたと思うよ。…すっきり終わらせてきなよ』
電話の向こうから聞こえてくる言葉は、私の思っているものとは全く違う話で。
「何言ってんの」
思わず笑ってしまった私に、真剣な麗ちゃんの言葉が続く。
『もう会わないつもりなら、しっかり言うだけ言って終わった方が良いと思う。今ならあの時の話、って言えるでしょ?』
……気付けば通話は終わっていて。
ふっとスマホを机の上に置いたところでドアが開きそっちを見る。
椋野さん。
「お疲れ様です。もう終わったのですか?」
「いえ…これからです…」
にこりと笑った椋野さんは中へ入って来て荷物を手に取る。
「…何かやり残したことはありませんか?顔が晴れやかではないです」
心配そうに穏やかにそう言う椋野さんに、今電話したからだろうか。
最後だからかな。
素直に言っても、いいような気がした。
「…椋野さん」
「はい」
「…苦しいです。卒業式で、離れていく生徒たちと自分を重ねてしまって。あの時言っとけばよかった、そう思ってももう戻れないんだな、と」
「矢野さんともうその方とは会えないんですか?」
静かに問われて、ゆっくりと笑う。
「実は…佐田くん、なんです」
最後の最後にこんなこと言っても困るだろうか。そう思いながら名前を出したのだけれど。
帰ってきたのはふふ、と言う笑い声だった。
「知ってましたよ」
「え、」
「大人の勘です。会社員の時も社内恋愛を見抜く力はありましたから。何かあるなと」
「…敵いません」
そっかぁ。
きっと私が何事も無かったかのように普通に接しようと、気にしないでおこうと頑張って平静を装っていたのも見抜かれていたのだろう。
肩の力が抜ける私に椋野さんは口を開く。
「大事なのはね、タイミングです」
「タイミング…」
「タイミングは待ってくれません。だけど、いくらでもやり直すことはできます。矢野さんはまだまだ若いんだから。それに、後悔してるって思っているならなおさら」
「……」
「私は打ち上げには行かないのでここでさよならです。楽しい2週間でした。……頑張ってね」