絶対やせて貰います。
自然に足が止まっていた私たちに聞き覚えのある声が呼び掛けるから驚いてしまった。
「”あさひ”と”こいちゃん”……二人とも足が速過ぎよ」
「マリアさん「母さん、どうしたの?」
「牛乳買って来てーって何度も電話したのに無視するから追って着ちゃったわよ」
ハアハア言いながら笑っていたマリアさんが急に真顔になってある方向を凝視している。
その視線の先に居たのは旭君のお父さんと例のお腹の大きな女性だった。
お店の正面は外灯で煌々と照らされて二人の姿が良く見えるけど……
向こうからこちらの側は良く見えていないらしく旭君のお父さんはマリアさんの存在に気が付いていない。
「秋緒さん……いつもありがとうございます。
でも奥様にそろそろお話された方が良くありませんか?
私もお会いしたのに……」
「そうなんだけど……もう少しだけ待ってくれないか?」
二人の会話が漸く聞き取れる音量でここまで流れてくる。
普通……唯の知り合いだったら『小岩井さん』って苗字で呼ぶよね?
『秋緒さん』って呼ぶくらい親しいってこと?
息継ぎも忘れるくらい場が凍るとはこんな事を言うのだろうか?
意味深な会話の内容が気になっていたら、悲しそうに顔を歪めたマリアさんが凄い勢いで走り出した。
「マリアさん……「母さん、待って!!」
私たちの呼び掛けに驚いたのは旭君のお父さん。
「えっ!マリアさん?」
慌てた様子でマリアさんを追いかけようとする旭君のお父さんを私は体を張って引き止めた。
「旭君、急いでマリアさんを追って……」
「分かった……こいちゃんごめん」
お父さんを思いきり睨み付けてから旭君はマリアさんを追いかけて行ってしまった。