絶対やせて貰います。
おやつを食べ終えた息子と娘が2階の部屋で昼寝をしたのを確認してから1階のキッチンに降りて夕食の準備に取り掛かろうとしたらチャイムも鳴らないのに玄関の扉がガチャリと開く音がする。
玄関の方に視線を向けるとそこに立って居たのは例のバイトの男の子。
今日はケーキを取りに来て貰う日ではないし、どうも様子がおかしいと感じた時には……もう既に彼が家の中へと上がり込んでいた。
思わず上げそうになった悲鳴を懸命に堪えたのは彼の手にナイフが握られていたから……
真っ先に頭に浮かんだのは2階で寝ている2人の子供のこと。
私の悲鳴で目を覚まして泣き出したら彼に何をされるか分からない。
呼吸も忘れていたからなのか?
胸が苦しくてパニックを起こしそうな自分に『冷静になれ』と言い聞かせる。
兎に角この状況から抜け出す手立てを頭の中でぐるぐると考えていた。
「奥さんは僕の事が好きでしょ?
だから……いつも優しくしてくれたんだよね?」
彼のブツブツと呟く声に全身から血の気が引いていく……
それでも私は幼い子供たちを残して、このまま死ぬ訳にはいかない。
彼を刺激しないように震える声で「好きよ」と答えた。
「やっぱり……そう思って迎えに来たんだよ」
彼は狂気に満ちた笑顔で私の両腕を後ろ手に縛り上げてから体をテーブルに横たえさせ上から覆い被さってくる。
彼の荒い息遣いが頬や耳に生暖かい温度で吹き掛かると気持ち悪さから吐き気がして胃の中の物まで上がってきそうになるのを懸命に堪えていた。
『このまま無抵抗でいたら彼が思いを遂げた後に……
黙ってそのまま立ち去ってくれるかも知れない……』
頭の中では淡い期待を抱くけれど……
心は、ましてや躰は頭の中のようには冷静では居られない。
嫌悪感からぶるぶる震える躰は血液までもが凍ってしまったようで、頭から指先まで熱を奪われた様に冷たくなっていく。