絶対やせて貰います。
またもや玄関扉がガチャリと鳴って誰かの入って来る足音が聞こえた私は
ビクンと体を硬直させて鈴木のおばあちゃんの体に強くしがみ付いた。
「マリアさん……男は警察に引き渡したからね」
おばあちゃんの体越しに見上げるとそこに立っていたのは斜向かいの向井さん。
『向井さんは確か……
定年退職される前は刑事課に所属する警察官』
脱力でぼぉーとする頭はあまり役に立ちそうも無かったけど……
ふとそんな事を思い出していた。
落ち着きをとり戻した私に鈴木のおばあちゃんが教えてくれたのは、
旭が『お母さんを助けて』とお隣の家に駆け込んだという事実。
『いつもケーキを取りに来るお兄さんが……
包丁みたいのでお母さんの洋服をやぶいてる
お母さんが泣いていた
だから……お母さんを助けてください』
旭が黙って居なくなったのは……
男が握っているナイフが旭にも見えていたからだ。
「マリアさんの息子は小さいのに立派だよ」
まだ幼い息子が機転を利かせてお隣に助けを求めてくれたことや
向井さんが止めるのも聞かずに……
さり気なくお裾わけを持って来た振りで助けに来てくれた鈴木のおばあちゃんの勇気
ご近所の皆さんのお蔭で助け出された事が有難過ぎて再び溢れ出した涙が止まらない。