絶対やせて貰います。

「何も知らないのに……気軽にダイエットに誘ってごめんなさい」

謝罪の言葉を口にして項垂れたように下を向く。

「こいちゃんがどうして謝るの?」

マリアさんは不思議そうに私の顔を窺い見ている。

「でも……でもマリアさんがまた笑えなくなったら……」

「ふふふ……もういい加減

脂肪の鎧(よろい)を脱がなきゃいけなかったのよ」

マリアさんの脂肪は自分自身を守るための鎧だったのですね。

「本当はもっと早くに脱がなきゃいけなかったのにね。

秋緒さんの気持ちをとり戻したいと思った時に『痩せたい』って

切実に思ったから初めて踏み出す勇気が出たの……

切っ掛けをくれた“こいちゃん”にはホント感謝してる。

どうして私が16年前の事件の話をしたのか分かる?」

「いいえ……」

そんなこと言われても私にはマリアさんの意図が全く分からない。

「う~ん。そうよねー」

考え込むような表情になり、またおもむろに言葉を続けるマリアさん。

「自分で望んで太ったのに、

心の片隅では『これは違うんじゃない?』って本当はずっと思ってたわ

『秋緒さんが浮気してるのは太った私に嫌気がさしたから』

そう自分勝手に思い込んで秋緒さんが浮気してると決めつけたり……

でも本人に確かめる勇気はなくて鬱々としちゃったりね。

秋緒さんが私に気を遣って黙っていた優しさが返って憂鬱の原因だった。

結婚から20年以上経ってもね

エスパーじゃないから話し合わないと相手の心の内なんて分からないのよ

失敗を繰り返した私だからこそ“こいちゃん”に言えるのは……

相手の話を聞かないうちは自分自身の思い込みで勝手に決めつけたり、

自己完結しないで欲しいってことなの

会話はとても大切よ……

思いはちゃんと伝えて後悔だけは残さないでね」


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