絶対やせて貰います。

「こいちゃん?」

呼び掛ける言葉にいつまで経っても反応しない私に痺れを切らしたのか?

私の正面に回り込んで来たのはやっぱり旭君だった。

「旭君……どうして?」

辛うじてのつぶやきに旭君は罪作りなほど眩しい笑顔で言った言葉が更に追い打ちをかける。

「寿三郎くんから連絡があってね。自分の代わりにこいちゃんを送って欲しいって……」

間の抜けた表情のまま旭君の話を聞いて思ったのは……

さすがに今日ばかりは姉思いの優しい弟のことが少しばかり恨めしく、思考もフリーズしているのか上手く言葉に出来ず、旭君の正面でただ立ちつくして居た。

「君……鯉子ちゃんのカレ?」

ドキッするその言葉は知らない間に私たちの直ぐ傍まで来ていた堺さんが発したものだ。

はぁーーーと大きなタメ息が零れそうになるのをグッと堪えて本日2回目になる言葉を口にする羽目になる。

「いいえ。彼は友達です。高校の同級生なんです小岩井旭君は……」

旭君が一瞬ムッとした表情に見えたのはきっと気のせいに違いない。

「そうなんだ……もしかしてモデル? カッコイイね君……」

”ふ~ん”って感じでマジマジと旭君を見つめながら堺さんは褒め言葉を使って牽制しているみたいに見える。

「こいちゃん、その人だれ?」今度は間違いなく不機嫌になった様子の旭君。

「こちらは堺直人さん。父と同じ会社に勤めてるの」

二人の男性の間に火花が散っているのは何故なの?

どうしてこんなことになったのだろう?

大人の余裕なのか笑顔の堺さんとイライラを隠そうともしない旭君の間で気まずさだけ増して重い空気が耐え難くなっていく。

だから……

一刻も早くこの場所を立ち去りたかった。



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