絶対やせて貰います。
再び気持ちが落ち込みそうになったその時、陽菜さんは……
「確かにあなたと彼なら素敵な写真が撮ると思う……素敵でつまらない写真がね」
「はぁ?」と口をあんぐりさせて驚く坂口さん。
「確かにそうねー」と陽菜さんは賛同の声を上げていたのだから坂口さんじゃなくても何故?って思ったもの。
「だってーあなたとじゃ、彼からこんな表情を引き出せないでしょ?」そう言って見せてくれたのは私と旭君が映っているデジタルカメラの映像。
「綺麗な写真が撮りたいだけならプロのモデルでも構わないじゃない?」それは確かにそうだ……撮られ慣れているプロモデルを使う方が素人モデルを使うよりよっぽど現場での進行はスムーズに運ぶ。
「……でもね『はじめまして』と挨拶した直後に、この二人みたいな雰囲気には絶対にならないのよ」
陽菜さんの言葉を噛みしめながら旭君の表情をよく見るとその意味がじんわりと心に染みてゆく。
私を見つめている旭君の優しい顔。
その表情が私を好きだと物語っているからまた告白されたみたいな気分になって、“ボン”と顔に熱が集まり真っ赤になる。
そんな私だって旭君に負けず劣らずで『旭君。大好き』って全身で訴えかけているから恥ずかしい事この上ない。
「この“幸せなオーラ”って言うの?それってあなたとじゃ絶対に出ないから……
でも、そっちの彼となら“そこそこ”いけるんじゃない。
衣装はまだ沢山用意してあるから、あなたたちも今日結婚式挙げちゃう?」
結婚って……結構大きな人生の節目だと思うんだけど……
陽菜さんの言い方だと「一緒にお茶しちゃう?」って感じ。
……その軽いノリに驚愕しております。
とても期待に満ちた表情で“いつでも準備OK”だと、まるでしっぽをパタパタ振ってご主人様の返事を待つ“忠犬“後藤君。
そんな彼を頭から足の先までスキャンでもするみたいにジッーと眺めた後
「やめときます」バッサリ切り捨てると「後藤君。行くわよ」と声を掛け退室する坂口さん。
坂口さんの「やめときます」でかなりのダメージを食らったらしい後藤君は耳としっぽがだらりと垂れさがりクーーンと泣きそうになりながら坂口さんを追って控室から出て行く。