絶対やせて貰います。
リビングのソファーに手持ち無沙汰に腰かける遼は麻紀さんの運んできたティーセットに目を輝かせているのが見て取れた。
お茶を注ぎ終わるのを待たずにクッキーに手を伸ばし口いっぱいに頬張る姿をほくそ笑んで眺める。
「麻紀さん。このクッキーめちゃ美味い……お代わりある?」遼の言葉に緩みそうになる顔を引き締めて『ヤッター』と心の中でガッツポーズする私。
「このクッキーはカンナお嬢様がお作りになりました。気に入って頂けて良かったですねお嬢様」麻紀さんと二人で作ったのに私に花を持たせてくれる優しい麻紀さん。
遼は余程驚いたのだろう、口をあんぐりとさせて唖然と私を見つめている。
「プッー」戦意喪失。
私は遼のあの表情を見れただけで満足して真実を話すことにした。
「私が一人で作ったんじゃないわよ。麻紀さんと二人で作ったの……」もし嫌味を言われてももう気にしない。
お代わりを催促するほど美味しいそうに食べる姿も何だか可愛く思えたからだ。
「へぇー。おまえが作ったのか?」そうは言っても嫌味を聞きたくないのもまた事実。
「そうよ。文句ある?」思わず可愛くない返事を返してしまう。
「すげーな。めちゃ美味いよ」顔をクシャクシャにした満面な笑顔でそう言われた途端、心臓をズキューン打ち抜かれた気がした。
『何これ?』
最悪だった印象から好印象の振れ幅が凄すぎて針が振り切れた瞬間だ。
「私の名前は“おまえ”じゃない。カンナよ」照れ隠しにそういったら「悪かった。カンナ……」名前を呼ばれただけで嬉しくて体の細胞が生まれ変わったみたいに感じた。
遼を見ていて感じたのは正直なヤツってこと。
思ったことは何でも率直に口にする、言われた方は堪ったもんじゃないけど本人に悪気はない。
それは褒める時も一緒で心から称賛の言葉を口にするから理解してしまえばとても付き合い易い相手だった。
クッキーが切っ掛けなんて笑えるけど……
犬猿の仲だった二人の関係も直ぐに変化を見せ始め、いつの間にか何でも話せる親友になっていた。