絶対やせて貰います。
ショックで体の力が抜けてしまい突っぱねた腕が折れ、お互いの体が再び密着する。
『キスする前は時間がスローモーションみたいに流れていく……って書いてなかった?
心臓がドキドキドキと早い鼓動を刻んで、自分の耳に余りにも大きく聞こえるから彼にも胸の高鳴りを気付かれないかと心配になる?って書いてあったよね……』
いつだったかは覚えていないけど、以前読んだ恋愛小説には確かにそう書いてあったのに……
「どうでもいいから……早く退いてくれ」
苦しそうな声にハッと我に返り、急いで遼の体のうえから上体を起こしかけた時、視線を感じて振り返ると遼のお母さんが唖然とした表情で私たちを見つめていた。
これは唯の事故で二人の間にはやましい事は何もないのに……
急いで言い訳しようとする私よりも先に、吉川のおばさまが口を開いた。
「遼。直ぐに来なさい……カンナちゃんはお茶でも飲んでて」
そう言ってバタンと遼の部屋のドアを閉めて出て行ってしまった。
「遼……」
私が悪ふざけをしたせいで大事になってしまい、どうしたら良いのか分からない。
「カンナは心配するな……」
そう言って励ます遼も緊張しているのが見て取れるから、余計に辛くなる。
「はぁー」
ため息一つ零して遼が部屋を出て行きドアが再びバタン閉じられ、
部屋の中には私一人が取り残された。