絶対やせて貰います。

「カンナは俺と一緒のところを見られたら困る相手はいる?」

遼にとっては唯の会話の糸口に過ぎないのかも知れないけど……私にはやっとかさぶたになり始めた心の傷を無理やり剥がす行為にも等しくて思わず顔をしかめてしまう。

「好きな人も付き合ってる人もいない……告白してくれる人は大勢いるけどね……」

『忘れようとしている人ならいるけど……そんなこと絶対に教えてあげない、私にだってプライドはあるの』

「そうか……そうだよな……」どこか切なさを滲ませてそんなことを言われてもホントに困る。

「髪……切ったんだな。それも凄く似合ってるけど……俺は長い時の方が好きだな」遼が何を言いたいかサッパリ分からなくて沸々と怒りが湧き上がってくる。

「彼女も髪長かったよね?次も髪の長い人探したら……私。もう行くね」

もう不毛な会話をする気力がない私は取り付く島がないような物言いで会話を終了させた。

そして気が付けばもうタクシー乗り場まで来ている……

止まっていたタクシーに直ぐに乗り込んで、運転手に行き先を告げた時にチラリと見たサイドミラーが遼の姿を映し出した。

振り向けば遼と視線を交わすことが出来たかも知れない……

それでも意地っ張りな私は両手にギュッと力を込めて握りしめる。

正面だけを見据えた私は、後ろを振り返ることは一度もなかった……



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