絶対やせて貰います。

開き直ったのが功を奏したのか?

面接官の質問にも緊張することなく平常心で返答することが出来てたし、心を込めて最後のお辞儀をして面接会場を出るとホッとして『やっと終わったー』って思いのほか清々しい気分。

結果はどうであれ『人事を尽くして天命を待つ』そう思っていたのに……

「上杉さん。ちょっと待って……」ある面接官が慌てて私を追って来た。

嫌な予感に汗が背中を流れ落ちる。

「最後にお伺いします……偽名を使って当社の就職試験を受けた理由をお聞かせください」

予想外の問い掛けに不意打ちを食らってしまい、一瞬にして頭が真っ白になった。

さすがは父が自慢するほどの優秀な社員だと感心するべきなのか?

私の正体が分かっているのに最後まで素知らぬ振りをする役者ぶりを褒めるべきなのか?

どちらにしてもちゃんと釈明しないといけないらしい。

あの日の約束で、私は父の名前を出さずにエントリーシートを提出していたので、母の姉で私からは伯母にあたる夫妻の娘として就職試験を受けた。

提出した書類上では「池内カンナ」になっている筈なのに上杉さんと呼ばれたからドキッとしたのは当然。

「どうぞ、こちらに……」

急に重くなった体を引きずるように面接官の後を付いて行くと、パーテンションで簡単に仕切られただけの打ち合わせや商談に使うらしい場所へと通された。

「あの……どうして分かったんですか?」始めに疑問に思ったのはそこだった。

書類に不備があったのならもっと早い段階で指摘があってもおかしくないから……

「あなたが兄と書いている池内隆弘は俺の高校の同級生。彼に妹はいなかったからね……」笑って種明かしをしてくれるけど、クラクラと眩暈がしそうになる。

まさか従兄の同級生だったとは世間は狭いなぁーと感心するどころではなくて、ガックリと項垂れてしまった。


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