絶対やせて貰います。

「なんだー錦野さんか、人が動き回る音がするから驚いちゃったー」

そう言って美術室に入って来たのは美術教師の田中先生。

てか、私も十分に驚かされましたけど……

「卒業おめでとーホントあんまり顧問らしいこと出来なくて面目ない」

苦笑いの表情で掛けられた言葉に

『ホントだよー』って気持ちが前面に出ていた為に返事が遅れてしまう。

「ありがとうございます。三年間お世話になりました。

田中先生お忙しそうでしたから仕方ないかと……」

しどろもどろとなりながらもどうにか言葉を返した。

「アハハ」と吹き出したと思ったら

「いえいえ……なんのお世話も出来ずホントごめんなさい。

そうそう錦野さんは”正直な子”だったのよね。

でもこんな時間に何で美術室に?」笑いながら用件を聞かれた。

「スケッチブックを忘れてしまったので……」キョロキョロと目で探して見るけど見つからない。

「アレ、錦野さんのモノだったの……ちょっと待てて」そう言い残して準備室に消える田中先生。

「はい、どうぞ」と手渡されたのは私の忘れたスケッチブックだった。

「先生……もしかして中見ちゃいました?」やっちゃったな私、ホント気まずい。

「だって名前書いてないから……もちろん見ましたとも」

その含み笑いをやめて欲しい。



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