マネー・ドール -人生の午後-
時計

(1)

 午前六時半。アラームが鳴る。手探りでボタンを押し、五分おきのスヌーズが始まると、慶太の声がする。
「真純、おはよう」
「うーん……眠い……」
「ほら、起きて。遅れるぞ?」
「起こして……」
「しょうがないなぁ。ほら」
慶太に抱き起こされて、やっと、目が開いて
「おはよう」って、キスするの。

 リビングはもうエアコンであったかくなってて、テーブルにはコーヒーとトースト。
家にいる時は、朝食は慶太の役目。何だか知らないけど、慶太はヤケに早起きなの。血圧、高め?
「今日の豆は、新しい店で買ったんだ」
慶太はドヤ顔で言うけど、私は正直、よくわかんない。でも、慶太が嬉しそうだから、おいしいねって笑うと、慶太も満足そう。

「ああ、今日のパーティ、大丈夫だよな?」
「うん。七時からだよね?」
「よろしくな」
「何着ていこうかな」
「俺は、今日は紺だよ」
「じゃあ、私はグレー……なんか、二人並ぶと暗いね」
「ベージュとか、ないの?」
「うーん、あんまり似合わないんだよね……」
「そうかな。俺は結構好きだよ」
うん、慶太がそう言うなら、ベージュに決まり。

 私達は、二十年の空白を埋めたくて、一秒でも長く、一緒の時間を過ごしてる。一緒に家を出て、途中の駅まで、慶太の車で送ってもらって、いってきます、のキスをして。なんか、今更だけど、新婚さんって感じ。
「じゃ、七時にな」
「うん、いってらっしゃい」
「いってきます」
慶太のベンツを見送って、私は改札へ。

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