マネー・ドール -人生の午後-
でも、振りかざしたそれは、動かない。
「何やってるんだ!」
「は、離して!」
後ろから手を掴んだのは、中村くんだった。
「門田さん……門田さんじゃないか! やめるんだ!」
「離してよ!」
あっさり、包丁を中村くんに取り上げられて、私は、もう……ダメ……
「……通報して……」
アスファルトが熱い……膝が火傷しそう……
「さとちゃん……何があったんだ?」
「なんでもないのよ。ああ、真純さん、ケガしてるわね……社長、手当てしてあげてもいいかしら」
左手の甲から血が出てる。でも、ぜんぜん、痛みなんて感じない。ポタポタと指輪を伝って、スカートに血が落ちていく。
「そうだね。さ、入って」
「ほっといてよ!」
「真純さん、ここだと……ね、入って……」
聡子さんは、バッグからハンカチを出して、私の傷を隠してくれた。
騒ぎを聞きつけた運転手さん達が何人か出て来て、こっちを見てる。
「なんでもないから!」
中村くんの一言で、運転手さん達は、ヒソヒソ話しながら、事務所へ入って行った。
私は、聡子さんに連れられて、裏口から更衣室へ。
「待っててね」
更衣室はエアコンが効いてなくて、暑くて、頬を伝って、汗と、涙が流れていく。
しばらくして、聡子さんが救急箱とペットボトルのお茶を持って来てくれた。
「手、見せて」
聡子さんのハンカチは血で真っ赤に染まっている。
「病院、行った方がいいかも……」
消毒液で傷を拭いて、ガーゼで少しきつく縛って、包帯を巻いてくれた。
「血が止まるまで、手首縛るね……さ、これでいいわ」
聡子さんは微笑んで、救急箱を片付けた。
「……どうして……」
「うん?」
「どうして……こんなに優しくするの?」
鏡を見れば、きっと、私は今の自分の姿が、信じられなかった。
Tシャツとスカートと、素足のサンダルは血と泥で汚れていて、メイクも落ちて、顔はきっと、腫れている。
きっと、子供の頃の、薄汚れた、私。
「何やってるんだ!」
「は、離して!」
後ろから手を掴んだのは、中村くんだった。
「門田さん……門田さんじゃないか! やめるんだ!」
「離してよ!」
あっさり、包丁を中村くんに取り上げられて、私は、もう……ダメ……
「……通報して……」
アスファルトが熱い……膝が火傷しそう……
「さとちゃん……何があったんだ?」
「なんでもないのよ。ああ、真純さん、ケガしてるわね……社長、手当てしてあげてもいいかしら」
左手の甲から血が出てる。でも、ぜんぜん、痛みなんて感じない。ポタポタと指輪を伝って、スカートに血が落ちていく。
「そうだね。さ、入って」
「ほっといてよ!」
「真純さん、ここだと……ね、入って……」
聡子さんは、バッグからハンカチを出して、私の傷を隠してくれた。
騒ぎを聞きつけた運転手さん達が何人か出て来て、こっちを見てる。
「なんでもないから!」
中村くんの一言で、運転手さん達は、ヒソヒソ話しながら、事務所へ入って行った。
私は、聡子さんに連れられて、裏口から更衣室へ。
「待っててね」
更衣室はエアコンが効いてなくて、暑くて、頬を伝って、汗と、涙が流れていく。
しばらくして、聡子さんが救急箱とペットボトルのお茶を持って来てくれた。
「手、見せて」
聡子さんのハンカチは血で真っ赤に染まっている。
「病院、行った方がいいかも……」
消毒液で傷を拭いて、ガーゼで少しきつく縛って、包帯を巻いてくれた。
「血が止まるまで、手首縛るね……さ、これでいいわ」
聡子さんは微笑んで、救急箱を片付けた。
「……どうして……」
「うん?」
「どうして……こんなに優しくするの?」
鏡を見れば、きっと、私は今の自分の姿が、信じられなかった。
Tシャツとスカートと、素足のサンダルは血と泥で汚れていて、メイクも落ちて、顔はきっと、腫れている。
きっと、子供の頃の、薄汚れた、私。