マネー・ドール -人生の午後-
 しばらくして、窓の外に、慶太のベンツが見えた。仕事なのに、来てくれたんだ……慶太……ごめんなさい……
「真純! 大丈夫か! ケガは!」
 慶太は慌てて更衣室に飛び込んで来て、私の手を取った。
「血が出てるじゃないか! 病院、病院行かないと!」
「佐倉、ちょっと……」
「なんだよ! ケガ、真純のケガが……」
「とにかく、ちょっと来てくれ」
 中村くんは、慶太の腕を掴んで、更衣室を出て行って、外から、二人の会話が聞こえてくる。
「なんだよ!」
「門田さん、かなり、その、動揺してるんだよ」
「動揺? ケガでか? そもそも、なんで真純がここにいるんだよ!」
「とにかく、今は、門田さんのこと……見守ってあげて」
「な……何があったんだよ……転んだって……」
「車は、うちの社員に届けさせるから」
 中村くんは、それ以上、何も言わなくて、慶太も、それ以上、何も聞かなかった。
「……わかった……」
 慶太は、少し落ち着いた様子で、部屋に入って来て、私を立たせようと、肩を抱いた。
「病院、行こうか」
「行かない」
「まだ、出血してるし、診てもらわないと……」
「大丈夫なの」
「そうか……あの、聡子さん、お世話になりました。中村も、ごめんな、迷惑かけて……」
「いえ……じゃあ、真純さん、お大事にね……」
 聡子さんは少し腫れた目で、無理に微笑んで、私達を見送ってくれた。

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