マネー・ドール -人生の午後-
「真純……」
 思い出から、慶太の声に、呼び戻された。
「愛してるよ」
息を弾ませて、慶太が耳元で囁く。
 感じないわけじゃない。ううん、すごく、感じるの。カラダが溶けて行きそうなくらい、感じる。

 私は、将吾と、慶太しか、知らない。知らないけど、たぶん、慶太は、『上手』なんだと思う。私が感じるように、満足するように、してくれる。
世の中には、『演技』をする女の子が多いらしいけど、私はそんなこと、したことない。しなくても……
 慶太の腕の中で、カラダが震えて、私の中で、慶太が震えて、息を切らせ気味にキスをして、私達のセックスは終わる。
オトナだもん。そうだよね。
 満足してないわけじゃない。
キスも、セックスも、アフターも、全部、素敵。甘い言葉で、甘いキスで、甘い指先で、私は眠りにつく。
慶太は、私より先に、絶対眠らないの。たぶん、私の寝顔にキスしてくれるんだと思う。
そんなに、大切にしてくれるのに、私……贅沢だよね……

 わかってるの……もう、私は、慶太のこと愛してるって。慶太も私を愛してくれてて……将吾は、他の人を愛してる。わかってるの。わかってる……

「……私のこと、好き?」
 こうやって、何度も聞いた。将吾に、何度も、何度も、何度も聞いた。その度に、将吾は、優しく、激しく、答えてくれた。
好きやって。お前が一番やって……東京の女なんかより、ええ女やって……
 それがね、将吾、辛かったの。だって、私は……
「好きだよ、真純」
東京の女になるために、東京に来たんだもん……
「ねえ、私、いけてる?」
「ああ、最高だよ」

 ねえ、将吾。
私ね、東京の女になったんだよ。
あんな地味で、薄汚れた、田舎臭い、貧乏くさい私じゃ、もうないんだよ。
あなたの奥さんもきっと、東京の、キレイな人だよね。
 だって、男の人は、そんな人が好きなんだもん。
ねえ、将吾、あなたの奥さんも、きっと……華やかで、キラキラした、『都会の女』だよね……

 私はこうして、慶太の愛を受けながら、心の中で、昔の恋人を追いかけていた。いけないって、わかってる。わかってるけど、私の気持ちは……どうしたらいいか、わからない……
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