マネー・ドール -人生の午後-
 ふと携帯を見ると、中村からの着信があった。あ、そうか……車か。
「ごめん、中村。病院だったんだよ」
「ケガ、どう?」
「ああ、もう大丈夫みたいだ」
「車、どうしよう、遅くなるけど、いいか?」
「いや、迷惑じゃなかったら、置いといてくれ。明日、俺が取りに行くから」
「それは構わないけど……じゃあ、都合のいい時に取りに来てくれ」
「……中村、本当に迷惑かけたな……」
「友達だろ? 気にすんなって。じゃ、お大事な」
 中村は笑って電話をきった。なんていい奴なんだ、中村は……心底、感謝するよ。

 中村のおかげで、少し落ち着いた俺は、現実を取り戻していた。

 ああ、そういえば、山内。どうしたかな。電話してみるか。
「山内、どうだ?」
「まあ、形はなんとか。奥さん、大丈夫なんですか?」
「ああ……まだかかりそうなのか」
「もう少しってとこです」
「行こうか?」
「……来ていただけると、ありがたいです」
 山内がそんなことを言うのは滅多にない。よほど、手こずっているんだろう。

 助手席では、薬が効いたのか、真純が眠っている。しばらくは寝ているかもしれない。
「わかった。今から戻るから待ってろ」

< 119 / 224 >

この作品をシェア

pagetop