マネー・ドール -人生の午後-
俺は真純を乗せたまま、神谷の事務所へ向かった。車を止めても、真純は眠っている。
「真純?」
声をかけても起きない。大丈夫かな……
真純を残して、車を降りた。
エアコンをかけておけば、暑くはないだろう。あの窓から、車は見えるはずだ。
「所長、すみません……」
「いや、悪かったな。さ、やってしまおうぜ」
山内は、外のアイドリングしたままの車を見て言った。
「奥さん、乗ってるんですか?」
「いいんだ」
一秒でも、時間がもったいない。できる限り、早く終わらせたい。
俺達は無言で、データの修正を続ける。時折、秘書がウロウロと見に来て、鬱陶しいこと、限りない。
一時間程で、データの修正が終わり、書類も整った。
「よし、これでいいだろう」
「先生に説明してきます」
「頼む。俺、挨拶だけして、帰るわ」
もう、どうでもいい。適当に挨拶をして、急いで車に戻ったけど……
「真純!」
助手席に、真純の姿はなかった。
嘘だろ……真純……
いつだろう。ずっと車は見ていたのに……挨拶している間なら、そんなに遠くには行ってないよな……
「所長、どうしたんですか?」
「や、山内……真純が……真純がいないんだよ……」
「えっ? トイレとかじゃ……」
「真純、ちょっとおかしいんだよ……探してくる。お前、ここで待っててくれ」
「わかりました」
辺りを探したけど、真純の姿はない。
どこに行ったんだよ……真純……まさか、事故とか……自殺とか……
嫌な考えが頭の中をグルグル回って、吐き気がする。
一瞬でも、真純を捨てようとしてしまったことが、俺を追い詰める。
あんなことするんじゃなかった。
どうしよう、真純、そんなつもりじゃなかったんだ……
「所長、通報しますか?」
「そうだな……こんな時間だしな……」
車に乗ろうとした時、携帯が鳴った。知らない番号。誰からだろう。
「佐倉慶太さんで間違いありませんか」
「は、はい……」
「こちら、駐在所です」
駐在所……まさか、事故にあったとか?
「奥様なんですが、道に迷われたみたいで、こちらで保護してます」
「妻がそこに、いるんですか! 無事なんですか!」
「はい。ご主人に連絡してほしいと言われたので、ご連絡しました」
「すぐ行きます。場所はどこですか」
駐在所は、すぐ近くで、フラフラと泣ながら歩く真純を、警官が保護してくれたらしい。
「真純……ダメじゃないか! 心配するだろ!」
「ご、ごめんなさい……目が覚めたら、知らない所で、慶太もいないからびっくりしたの……」
「ケガはない? 大丈夫?」
「うん……おまわりさんに、助けてもらったの……」
パイプ椅子に、身を屈めて座る真純。
サンダルをひっかけた素足は汚れていて、膝は擦りむけている。
「ころんじゃったの」
「そうか。家に帰って、消毒しょうか」
手を差し出すと、真純は、小さな子供のように、俺の手をぎゅっと握って、身を寄せた。
「お世話になりました」
「いえ、お気をつけて」
「真純?」
声をかけても起きない。大丈夫かな……
真純を残して、車を降りた。
エアコンをかけておけば、暑くはないだろう。あの窓から、車は見えるはずだ。
「所長、すみません……」
「いや、悪かったな。さ、やってしまおうぜ」
山内は、外のアイドリングしたままの車を見て言った。
「奥さん、乗ってるんですか?」
「いいんだ」
一秒でも、時間がもったいない。できる限り、早く終わらせたい。
俺達は無言で、データの修正を続ける。時折、秘書がウロウロと見に来て、鬱陶しいこと、限りない。
一時間程で、データの修正が終わり、書類も整った。
「よし、これでいいだろう」
「先生に説明してきます」
「頼む。俺、挨拶だけして、帰るわ」
もう、どうでもいい。適当に挨拶をして、急いで車に戻ったけど……
「真純!」
助手席に、真純の姿はなかった。
嘘だろ……真純……
いつだろう。ずっと車は見ていたのに……挨拶している間なら、そんなに遠くには行ってないよな……
「所長、どうしたんですか?」
「や、山内……真純が……真純がいないんだよ……」
「えっ? トイレとかじゃ……」
「真純、ちょっとおかしいんだよ……探してくる。お前、ここで待っててくれ」
「わかりました」
辺りを探したけど、真純の姿はない。
どこに行ったんだよ……真純……まさか、事故とか……自殺とか……
嫌な考えが頭の中をグルグル回って、吐き気がする。
一瞬でも、真純を捨てようとしてしまったことが、俺を追い詰める。
あんなことするんじゃなかった。
どうしよう、真純、そんなつもりじゃなかったんだ……
「所長、通報しますか?」
「そうだな……こんな時間だしな……」
車に乗ろうとした時、携帯が鳴った。知らない番号。誰からだろう。
「佐倉慶太さんで間違いありませんか」
「は、はい……」
「こちら、駐在所です」
駐在所……まさか、事故にあったとか?
「奥様なんですが、道に迷われたみたいで、こちらで保護してます」
「妻がそこに、いるんですか! 無事なんですか!」
「はい。ご主人に連絡してほしいと言われたので、ご連絡しました」
「すぐ行きます。場所はどこですか」
駐在所は、すぐ近くで、フラフラと泣ながら歩く真純を、警官が保護してくれたらしい。
「真純……ダメじゃないか! 心配するだろ!」
「ご、ごめんなさい……目が覚めたら、知らない所で、慶太もいないからびっくりしたの……」
「ケガはない? 大丈夫?」
「うん……おまわりさんに、助けてもらったの……」
パイプ椅子に、身を屈めて座る真純。
サンダルをひっかけた素足は汚れていて、膝は擦りむけている。
「ころんじゃったの」
「そうか。家に帰って、消毒しょうか」
手を差し出すと、真純は、小さな子供のように、俺の手をぎゅっと握って、身を寄せた。
「お世話になりました」
「いえ、お気をつけて」