マネー・ドール -人生の午後-
バスルームから出て、真純の髪にドライヤーをあてる。長い髪は、なかなか乾かない。
「なかなか、乾かないもんだね」
「切ろうかな。短く」
「俺は長い髪の方が、好きだけどなぁ」
その言葉に、真純は、俺に抱きついて、胸に顔を埋めた。
「慶太、かっこいいね」
「なんだよ、急に」
「ずっとね、慶太の隣にいて、恥ずかしくない子になりたかった」
「恥ずかしくないよ」
「ううん、恥ずかしかったの」
「真純は、最高だよ。美人だし、色っぽいし、可愛いし」
「おばさんなのに?」
「俺もおっさんじゃん」
バスローブの胸元からのぞくタニマに、手を入れると、真純は、恥ずかしそうに笑った。
その顔が最高に可愛くて、俺は、もう、完全に欲情……しちゃうじゃん。
「私のこと、好き?」
「好きだよ……ほら、こんな感じだよ、もう……」
押し付けた俺を、ちょっとだけ触って、クスクス笑う。
可愛いなあ。やっぱり、俺、真純と離れることなんて、できないや。
「ガマンできなくなっちゃうよ。前、向いて」
しかしまあ、昼間、他の男と会っていた嫁さんに欲情するなんて……異常かな、俺も……
「さ、乾いたよ」
ドライヤーをあてた後の髪はまだ温かくて、うなじに汗で、はり付いている。
真純は、いつものタオル地のワンピースに着替えて、ベッドに寝転んで、少し手が痛いと言った。
「痛み止め、飲む?」
「うん」
「取ってくるから、待ってて」
もう随分落ち着いたのか、ついてくるとは言わず、ベッドに寝転んだまま、素直に頷いた。
薬を飲み終えると、痛くなくなったって、真面目な顔で言った。
そんなすぐに効くわけないだろ。
心の中でつっこんで、改めて、そんな真純が可愛くて仕方がない。
可愛いから、俺は……
「真純……杉本と……その……」
情けないけど、もう聞かずにはいられない。
真純は俯いて、首を横に振った。
「して……ないんだよね?」
少し間があって、真純は、微かに頷いた。
「杉本の所に行きたいの?」
もうそれは、一世一代の質問で、心臓が飛び出そうなくらいドキドキして、真純の返事を待った。
だけど、真純は答えず、天井を見上げたまま、ぼんやりと言った。
「……慶太、私の背中、きれい?」
「背中? ああ、きれいだよ。白くて、艶っぽい」
「聡子さんのね、背中ね……火傷の痕があるの……大きな痣……昔、家が火事にあって、その時に、火傷したんだって……」
「そうなんだ……」
「将吾だけなんだって……その痣を見ても、変わらなかった人……私もね、子供の頃からずっと、将吾に助けてもらってた。みんなね、私のこと、汚ないとかね、クサイとかね……でも、将吾だけは、そんなこと言わなかった。ボロボロの、本当に汚ない子だったの、私。それでも、将吾だけはね……優しくしてくれたの……こんな私をね、好きだって……将吾は友達も多くて、女の子にももててたのに……なんで私だったのかなって……」
今では、そんなこと考えられないくらい、綺麗になった真純を、杉本はどう思ってるんだろう。
「きれいになりたかったの。変わりたかった。広島での私を、全部捨てたかった」
そして真純は、初めて、俺の知らない真純を、話し始める。
「なかなか、乾かないもんだね」
「切ろうかな。短く」
「俺は長い髪の方が、好きだけどなぁ」
その言葉に、真純は、俺に抱きついて、胸に顔を埋めた。
「慶太、かっこいいね」
「なんだよ、急に」
「ずっとね、慶太の隣にいて、恥ずかしくない子になりたかった」
「恥ずかしくないよ」
「ううん、恥ずかしかったの」
「真純は、最高だよ。美人だし、色っぽいし、可愛いし」
「おばさんなのに?」
「俺もおっさんじゃん」
バスローブの胸元からのぞくタニマに、手を入れると、真純は、恥ずかしそうに笑った。
その顔が最高に可愛くて、俺は、もう、完全に欲情……しちゃうじゃん。
「私のこと、好き?」
「好きだよ……ほら、こんな感じだよ、もう……」
押し付けた俺を、ちょっとだけ触って、クスクス笑う。
可愛いなあ。やっぱり、俺、真純と離れることなんて、できないや。
「ガマンできなくなっちゃうよ。前、向いて」
しかしまあ、昼間、他の男と会っていた嫁さんに欲情するなんて……異常かな、俺も……
「さ、乾いたよ」
ドライヤーをあてた後の髪はまだ温かくて、うなじに汗で、はり付いている。
真純は、いつものタオル地のワンピースに着替えて、ベッドに寝転んで、少し手が痛いと言った。
「痛み止め、飲む?」
「うん」
「取ってくるから、待ってて」
もう随分落ち着いたのか、ついてくるとは言わず、ベッドに寝転んだまま、素直に頷いた。
薬を飲み終えると、痛くなくなったって、真面目な顔で言った。
そんなすぐに効くわけないだろ。
心の中でつっこんで、改めて、そんな真純が可愛くて仕方がない。
可愛いから、俺は……
「真純……杉本と……その……」
情けないけど、もう聞かずにはいられない。
真純は俯いて、首を横に振った。
「して……ないんだよね?」
少し間があって、真純は、微かに頷いた。
「杉本の所に行きたいの?」
もうそれは、一世一代の質問で、心臓が飛び出そうなくらいドキドキして、真純の返事を待った。
だけど、真純は答えず、天井を見上げたまま、ぼんやりと言った。
「……慶太、私の背中、きれい?」
「背中? ああ、きれいだよ。白くて、艶っぽい」
「聡子さんのね、背中ね……火傷の痕があるの……大きな痣……昔、家が火事にあって、その時に、火傷したんだって……」
「そうなんだ……」
「将吾だけなんだって……その痣を見ても、変わらなかった人……私もね、子供の頃からずっと、将吾に助けてもらってた。みんなね、私のこと、汚ないとかね、クサイとかね……でも、将吾だけは、そんなこと言わなかった。ボロボロの、本当に汚ない子だったの、私。それでも、将吾だけはね……優しくしてくれたの……こんな私をね、好きだって……将吾は友達も多くて、女の子にももててたのに……なんで私だったのかなって……」
今では、そんなこと考えられないくらい、綺麗になった真純を、杉本はどう思ってるんだろう。
「きれいになりたかったの。変わりたかった。広島での私を、全部捨てたかった」
そして真純は、初めて、俺の知らない真純を、話し始める。