マネー・ドール -人生の午後-
「初めてだね」
「え?」
「こんなに、真純が自分のこと話してくれたの」
「そう、ね……」
「やり直そうって、約束したじゃん。ずっと夫婦でいようって、約束しただろ?」
「……いいの? 私……」
「待つから」
「待つ?」
「そ、待つから」
「つらくないの? こんな私……裏切ったんだよ、慶太のこと……」
「真純を失う方が、もっと辛い」
 それは、本心だった。
 やっぱり俺は、真純が好きだ。真純のそばにいたい。理由なんてない。ただ、好きなんだ。愛してる。惚れてる。恋、してる。

「俺のこと、嫌い?」
「ううん、好きなの。とってもね、慶太のこと好きなの」
「アクセサリーとして?」
冗談のつもりだったけど、真純が悲しそうな顔をしたから、慌てて取り繕う。
ああ、こういうところ、俺、バカだなあ。
「冗談だよ。そんな顔しないで」

 俺も真純を、アクセサリーとして扱ってた。
……変わらないよ、俺も。お前だけが、罪を感じることないんだよ。

「これからさ、本当の夫婦になろうよ」
「今日、中村くんに言われた。夫婦なんだから、ちゃんと話し合えって。……私達、話し合うって、したことないね」
「そうだな……そうだよね。俺達、夫婦として、何も話し合ってこなかったよな……」

 真純の横顔は、すっかりキャリアウーマンの、凛とした顔に戻っていて、でも、どこか、少女のように可憐で、なんだか、真純が真純でないように見える。
 初めて見る、真純の顔。
これが、本当の真純の顔なのかな……綺麗、可愛い、そんな単純な単語では表せない、不思議なオーラ。

「眠い?」
真純が目をこすってる。かわいいなあ。
「うん……」
「手は? 痛くない?」
「うん。今は痛くない」
「もう寝ようか。今日はいろんなことがあって、疲れただろ?」
「慶太は?」
「俺も寝るよ」
「疲れたよね?」
「疲れてないって言ったらウソになるな」
「ごめんね……」
「もういいんだよ」
 横になると、急に睡魔が襲って来た。俺も結構、ヘトヘトだ。
「キスしよう」
「うん」
 真純はちょっと笑って、目を閉じた。
 俺達は軽いキスをして、でも、それだけでやっぱり終わらなくて、長いキスをした。
「おやすみ」
「おや……すみ……」
 もう半分寝てるじゃん。これ以上は、今夜は、ガマン、だよな。
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