マネー・ドール -人生の午後-
ああ、やっと真純と二人きりになれた。
午後の部屋は暑くて、汗だくになりながら着替えて、エアコンの効いたリビングへ。真純はまだ菓子パンをかじっていて、テレビを見て笑っている。
「何、食べてるの?」
「これ? 高級ジャムパン」
ふん、確かに、袋には高級ジャムパンってかいてある。
「今度、おいしいジャムパン、買ってきてあげるよ。自家製のジャムを使ってるらしいんだ。材料は全部国産で、おいしんだよ、ほんとに」
「へえ、すごいんだ」
真純は興味なさそうに頷いた。
どうやら、真純はあまり食べ物にはこだわりがないらしい。
自分で買って食べてるのは、だいたいコンビニとかスーパーで売ってる菓子パンで、さっきの藤木の持ってきたケーキも、おいしいと喜んでたけど、たぶん、あんまりわかってない。
そもそも、スイーツなんてものを食べてるところを見たことない。
「ほら、ジャムついてる」
「どこ?」
「ここ」
口端についたジャムを指で拭って、舐めてみた。うん、普通の、安いイチゴジャムだ。
「ありがと」
そう呟いた唇に、もうガマンできなくて、キスをすると、さっきの甘ったるいジャムの味がした。
「甘い味がする」
「ジャム?」
「うん」
「パンの中だと、ジャムパンが一番好きなの」
へえ、知らなかった。
「俺はメロンパンかな」
「あ、メロンパンも好き! あとね、チョココルネとか」
「パン、好きなんだ」
「好きって言うか……子供のころ、それしか食べてなかったから、あんまり他のものがわかんないの」
そういうことか……子供の真純にとって、菓子パンが食事だったんだ……
「夜は、何か食べに行こうか」
「うーん、おうちで食べたい」
「じゃあ、寿司でもとろうか」
「うん」
隣でテレビを観て笑う真純の胸元は、相変わらずはちきれそうで、藤木がガン見してたみたいに、俺も横から、ガン見してしまう。
「……胸、見てる?」
「えっ? いや……」
「イヤだったの。年頃のころは…ろくに食べてなかったのに、胸ばっかり大きくなって……中学の頃からね、母親が連れてくる男の人が、私のこと見てニヤニヤ笑うの。それがすごく嫌で……」
「ごめん……」
「別に、あやまんなくていいよ。母親もね、こんな体つきで……自分でもわかってた。男の人が好きな体で、男の人は、そういう目でしか見てないって」
確かに……最初は俺もそうだったよな。
「将吾も、そうだと思ってた」
「え? でも、あいつは……」
「東京に来て、一緒に暮らし始めて、一週間くらいした時かな。今でも、覚えてる。三月なのに、すごく寒い日で、布団がね、一組しかなくて……暖房もないし、くっついて寝るしかなくって……うまくね、できなかったの」
真純は窓の外を見て、ちょっと思い出し笑いをしたけど、俺は、そんな話……
「……あんまり、聞きたくないんだけど」
「あっ! ごめんなさい……なんか、昨日から、昔のこと話したくなっちゃって……今までは、昔の私のこと、慶太には絶対知られたくなかったのに、なんか……ごめんね……」
真純は不安な目で、俺の顔を覗き込んだ。その目が……
「俺って、結構、ヤキモチなんだよ」
真純を抱きしめて、真純の匂いを嗅いだ。昨日のシャンプーの匂い。さっきのジャムの匂い。洗濯物の柔軟剤の匂い。そして、真純の、ちょっと汗ばんだ、首筋の匂い。
「どこにも行くな」
真純は、うん、って頷いた。
「俺しか、見ないでくれよ」
午後の部屋は暑くて、汗だくになりながら着替えて、エアコンの効いたリビングへ。真純はまだ菓子パンをかじっていて、テレビを見て笑っている。
「何、食べてるの?」
「これ? 高級ジャムパン」
ふん、確かに、袋には高級ジャムパンってかいてある。
「今度、おいしいジャムパン、買ってきてあげるよ。自家製のジャムを使ってるらしいんだ。材料は全部国産で、おいしんだよ、ほんとに」
「へえ、すごいんだ」
真純は興味なさそうに頷いた。
どうやら、真純はあまり食べ物にはこだわりがないらしい。
自分で買って食べてるのは、だいたいコンビニとかスーパーで売ってる菓子パンで、さっきの藤木の持ってきたケーキも、おいしいと喜んでたけど、たぶん、あんまりわかってない。
そもそも、スイーツなんてものを食べてるところを見たことない。
「ほら、ジャムついてる」
「どこ?」
「ここ」
口端についたジャムを指で拭って、舐めてみた。うん、普通の、安いイチゴジャムだ。
「ありがと」
そう呟いた唇に、もうガマンできなくて、キスをすると、さっきの甘ったるいジャムの味がした。
「甘い味がする」
「ジャム?」
「うん」
「パンの中だと、ジャムパンが一番好きなの」
へえ、知らなかった。
「俺はメロンパンかな」
「あ、メロンパンも好き! あとね、チョココルネとか」
「パン、好きなんだ」
「好きって言うか……子供のころ、それしか食べてなかったから、あんまり他のものがわかんないの」
そういうことか……子供の真純にとって、菓子パンが食事だったんだ……
「夜は、何か食べに行こうか」
「うーん、おうちで食べたい」
「じゃあ、寿司でもとろうか」
「うん」
隣でテレビを観て笑う真純の胸元は、相変わらずはちきれそうで、藤木がガン見してたみたいに、俺も横から、ガン見してしまう。
「……胸、見てる?」
「えっ? いや……」
「イヤだったの。年頃のころは…ろくに食べてなかったのに、胸ばっかり大きくなって……中学の頃からね、母親が連れてくる男の人が、私のこと見てニヤニヤ笑うの。それがすごく嫌で……」
「ごめん……」
「別に、あやまんなくていいよ。母親もね、こんな体つきで……自分でもわかってた。男の人が好きな体で、男の人は、そういう目でしか見てないって」
確かに……最初は俺もそうだったよな。
「将吾も、そうだと思ってた」
「え? でも、あいつは……」
「東京に来て、一緒に暮らし始めて、一週間くらいした時かな。今でも、覚えてる。三月なのに、すごく寒い日で、布団がね、一組しかなくて……暖房もないし、くっついて寝るしかなくって……うまくね、できなかったの」
真純は窓の外を見て、ちょっと思い出し笑いをしたけど、俺は、そんな話……
「……あんまり、聞きたくないんだけど」
「あっ! ごめんなさい……なんか、昨日から、昔のこと話したくなっちゃって……今までは、昔の私のこと、慶太には絶対知られたくなかったのに、なんか……ごめんね……」
真純は不安な目で、俺の顔を覗き込んだ。その目が……
「俺って、結構、ヤキモチなんだよ」
真純を抱きしめて、真純の匂いを嗅いだ。昨日のシャンプーの匂い。さっきのジャムの匂い。洗濯物の柔軟剤の匂い。そして、真純の、ちょっと汗ばんだ、首筋の匂い。
「どこにも行くな」
真純は、うん、って頷いた。
「俺しか、見ないでくれよ」