マネー・ドール -人生の午後-
「……昨日の将吾は、そうだった」
「そう、だった?」
「バカね、私……将吾は、私のことなんて、もう好きじゃないのに」
「どうして?」
「キレイになったって、私のこと見たの。あれはきっと、もう、昔の私じゃないって、ことなんだよね……」
何も言えなかった。
真純は、わかってたんだ……やっぱり、真純は、わかってるんだ。
もう戻れないこと、現実は、もう過去とは違うってこと、杉本は、もう自分のものじゃないってこと。
真純はもう、昔の真純じゃないってこと。
杉本、お前、誤解してるよ。
真純がお前と別れたのは、捨てたんじゃなくて、杉本、お前が真純を縛り付けたから、逃げたんだよ。
昔の自分を捨てたがる真純に、それを禁じた。それはお前の罪なのかもしれないな。
もし、お前が真純が望む通りに、都会に馴染んで、真純が都会の女になっていくことを受け入れてやれれば、真純はお前と一緒にいたんだよ。
なあ、杉本。真純は、欲しがるだけの女じゃない。真純は、自由に生きたいんだよ。暗黒の十八年を、東京で捨てたかった。
でも、お前はそれを許さなかった。
そんな真純を、俺が都会に引き込んだ。東京で生きる真純だけを、俺は見ていた。真純の過去など、関係なく、俺は、真純を、都会の女になった真純だけを、見た。
それが、真純の望み、だった。間違った望みだったかもしれないけど、真純は、そうしたかった。
真純が、俺を選んだのは……いや、その人生を選んだのは……必然、だったのかもしれない。
「俺との、二十年……後悔してる?」
「してるわ」
「……そうか」
「もっと早く、こうやって話せばよかった。そしたら……私達、普通の家族になれてたのに……」
「真純……」
「慶太を選んだこと、一度も後悔したことないの。でも、自分のついた嘘が、どうしても許せなかった。それに、慶太にね、ずっと……コンプレックス、感じてた」
「コンプレックス? そんなもの、ないよ」
「私、キレイになった? 都会の、東京の、オシャレで、いけてる女になった?」
キャビネットのガラスにうつる真純は、飾り気のない、普通の、女。
でも、俺は……そうだな。今の、お前のほうが……好きかも。
「もう、そんなこといいんだよ。もう、そんなことどうでもいいんだ。いけてなくても、俺は真純を愛してる。もう、見た目なんか、どうでもいいんだよ」
真純は、ぼんやりと俺を見た。
「そっか……」
何かが抜け落ちたような顔で、窓の外を眺めて、俺の肩にもたれかかった。
「そうだよね。夫婦だもんね」
「ああ、そうだよ。俺たちは、夫婦なんだよ」
「やっぱり、髪切りたい」
自由に。自由に、真純、自由に、していいんだよ。
「うん。ショートの真純も見てみたいかなって、ちょっと思った……俺も、髪切ろうかな」
「坊主にする?」
「罰ゲームかよ!」
俺達は、二人で笑った。こんな風に笑える日が来るなんて、半年前までは思わなかったよ。
「そう、だった?」
「バカね、私……将吾は、私のことなんて、もう好きじゃないのに」
「どうして?」
「キレイになったって、私のこと見たの。あれはきっと、もう、昔の私じゃないって、ことなんだよね……」
何も言えなかった。
真純は、わかってたんだ……やっぱり、真純は、わかってるんだ。
もう戻れないこと、現実は、もう過去とは違うってこと、杉本は、もう自分のものじゃないってこと。
真純はもう、昔の真純じゃないってこと。
杉本、お前、誤解してるよ。
真純がお前と別れたのは、捨てたんじゃなくて、杉本、お前が真純を縛り付けたから、逃げたんだよ。
昔の自分を捨てたがる真純に、それを禁じた。それはお前の罪なのかもしれないな。
もし、お前が真純が望む通りに、都会に馴染んで、真純が都会の女になっていくことを受け入れてやれれば、真純はお前と一緒にいたんだよ。
なあ、杉本。真純は、欲しがるだけの女じゃない。真純は、自由に生きたいんだよ。暗黒の十八年を、東京で捨てたかった。
でも、お前はそれを許さなかった。
そんな真純を、俺が都会に引き込んだ。東京で生きる真純だけを、俺は見ていた。真純の過去など、関係なく、俺は、真純を、都会の女になった真純だけを、見た。
それが、真純の望み、だった。間違った望みだったかもしれないけど、真純は、そうしたかった。
真純が、俺を選んだのは……いや、その人生を選んだのは……必然、だったのかもしれない。
「俺との、二十年……後悔してる?」
「してるわ」
「……そうか」
「もっと早く、こうやって話せばよかった。そしたら……私達、普通の家族になれてたのに……」
「真純……」
「慶太を選んだこと、一度も後悔したことないの。でも、自分のついた嘘が、どうしても許せなかった。それに、慶太にね、ずっと……コンプレックス、感じてた」
「コンプレックス? そんなもの、ないよ」
「私、キレイになった? 都会の、東京の、オシャレで、いけてる女になった?」
キャビネットのガラスにうつる真純は、飾り気のない、普通の、女。
でも、俺は……そうだな。今の、お前のほうが……好きかも。
「もう、そんなこといいんだよ。もう、そんなことどうでもいいんだ。いけてなくても、俺は真純を愛してる。もう、見た目なんか、どうでもいいんだよ」
真純は、ぼんやりと俺を見た。
「そっか……」
何かが抜け落ちたような顔で、窓の外を眺めて、俺の肩にもたれかかった。
「そうだよね。夫婦だもんね」
「ああ、そうだよ。俺たちは、夫婦なんだよ」
「やっぱり、髪切りたい」
自由に。自由に、真純、自由に、していいんだよ。
「うん。ショートの真純も見てみたいかなって、ちょっと思った……俺も、髪切ろうかな」
「坊主にする?」
「罰ゲームかよ!」
俺達は、二人で笑った。こんな風に笑える日が来るなんて、半年前までは思わなかったよ。