マネー・ドール -人生の午後-
 季節は秋に移って、随分涼しくなった。朝晩はちょっと寒いくらいで、あの夜からもうすぐ一年なんだなぁ。また寒くなるのか。真純の嫌いな冬がやってくる。でも、寒くなると、ずっと俺にくっついてくれるし、俺にとっては結構いい季節だったりする。
 俺たちは順調にラブラブ夫婦街道を突っ走ていて、ここのところ、真純も、ずいぶん落ち着いていて、泣いたり、動揺したりすることも少なくなった。
やっぱり、愛の力は偉大だなあ。

「何点?」
「七十八点ですね」
「やった! 合格?」
「はい、よく頑張りました」
あっ! 真純の頭をポンポンした! おい! 触るな!
 後ろからじっとり見る俺に気がついて、真純が俺の隣に座った。慌てて新聞を読むフリをする俺に、解答用紙を広げる。
「所長、見て」
「へえ、すごいじゃん。やっぱ真純は頭いいんだ」
「山内先生のおかげよ」
山内は勝ち誇ったように笑って、真純のスカートから伸びる、白い太ももに視線を落とした。
 ふう……真純、お前さ、男には下心ってもんがあるんだよ。そういうの、全く気にしてないよな……
「コーヒーでも淹れようかな」
「俺のは、部屋に持って来て」
「はーい」
 ヤロウ共、しばらく、俺の部屋は出入り禁止だからな!

「失礼しまーす、所長」
「もう、そんな呼び方」
「だって、会社だもん」
「この部屋はいいの」
真純がコーヒーをテーブルに置いて、ガマンも限界。ぎゅっと抱きしめると、恥ずかしそうに俯く。
「もう、また……」
「約束通り、ブラインドつけたじゃん」
 外から丸見えの窓には、真純の要望で、ホームセンターで買ったブラインドをつけたけど、真純はダサいって気に入らないみたいだ。ブラインドなんか、どうでもいいだろう。
「キスしよ」
「ダメだって……」
 ダメって言われて引き下がるわけもなく、思う存分、真純の唇を味わいました。
「口紅、ついてる」
「とって」
ティッシュで拭うと、確かに真純の口紅の色。こういうの見ると、キスしたんだなって実感する。
「なあ、山内と、イチャイチャしすぎじゃない?」
「勉強、教えてもらってるだけじゃん」
「俺が教えてあげるよ」
「絶対、勉強にならないもん」
あ、ばれてた?
「山内のこと、好きなの?」
 俺の言葉に、真純は涙目で爆笑している。
「そんなわけないじゃん!」
「そんな可笑しい?」
「だって……」
本気で言ったのに……
「山内は真純のこと好きだよ」
「はいはい」
「マジメに言ってるのに」
「怒ってるの?」
ヤキモチ妬いてるの!
「もっかいキス」
 キスしながら、おっぱいを触って、山内がエロい目で見てた太ももの間に手を滑り込ませて……ああ、もう、ダメ。ガマンできない。
「真純……しよっか……」
「もう、ダメに決まってるでしょ!」
「いいじゃん」
 思いっきりイチャイチャしてると、ノックと同時に、藤木が入ってきた。
「失礼……します……」
「おい! 勝手に入んなよ!」
「す、すみません……」
 藤木は真純のちょっと乱れたスカートの裾に、顔を赤らめた。
「で、何?」
「あ、あの、真純さんに、お客様です」
「私に? 誰だろう」
「田山さんという方です」
 た、田山? なんで田山が!
「田山くん? わあ、久しぶり! すぐに行きます」
真純は口紅を塗り直して、浮かれた様子で出て行った。
「ちょっと、俺も行くって」

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