マネー・ドール -人生の午後-
 少し遅れて……将吾が到着したみたい。
「おそなってごめんなあ!」
 黒のワンボックスから、女の子が二人と、男の子が一人、続いて……将吾……
 心臓がドキドキして、たぶん、足が震えてる。

「凛がトイレ行きたいとかいうて、もう、大変やったわ」
 将吾は、相変わらず訛りが抜けてなくて、タクシーで会ったときはわからなかったけど、いいパパって感じになってる。
「久しぶりだね、杉本」
「おお! 佐倉かぁ! お前、変わらんなあ! 男前じゃ!」
「まあね。お前も、相変わらず、バッキバキじゃん」
 そして……
「久しぶりやなぁ」
将吾は、私に、笑顔で言った。
「うん。久ぶりだね」
 中村君と慶太は、コンロの準備をしに、その場を離れた。私たちは、少し、黙ったまま、俯いていた。

 しばらくして、車から、スーパーの袋を持った女の人が歩いてきて、私達の前に、立った。

「ああ、嫁さんの、聡子」
 この人が……
「真純や。ほら、幼馴染の……」
「まあ、この方が? はじめまして、杉本聡子です。お会いできてうれしいです」
 聡子さんは、とても優しそうな人で、にっこり微笑んだ。微笑んだけど……私は、素直に、微笑みを返せない。
だって……

 聡子さんは、『都会の女』じゃなかった。
どこも、全然、キラキラしてなかった。
地味で、質素で、垢抜けてなくて……どうして? 将吾……都会の女の人と、結婚したんじゃなかったの?

「パパー!」
娘ちゃん達が、走ってきた。
「こら、走ったら危ないやろ」
将吾はその逞しい腕に彼女達を抱きしめて、挨拶せんか、と言った。
 二人は恥ずかしそうに私の前に並んで、こんにちは、と頭をぺこっと下げた。
「パパ、ジュース飲んでいい?」
「ええよ。そやけど、ご飯やからな。飲みすぎたらいけんよ」
 はーい、と言って、二人は手をつないで、加奈さんのところに走って行った。じゃあ、と言って、聡子さんも後を追って、私達はまた、二人になった。

「上が凛で、下が碧や。小三と小一で……あそこにおるのが、一番上の涼や」
「中学、二年生? へえ、大きいのね。」
「野球、やっとるんや」
「なんだか、将吾の子供の頃に、似てるね」
「そうか? 俺はもっと、イケメンやったで?」
「そうだったかしら。もう忘れちゃったわ」


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