マネー・ドール -人生の午後-
(3)
妊活を開始して一週間。まあ、妊活っていっても、アレを取っただけで、別に何もかわらないんだけど。
でも、俺にはあのことが、ずっと引っかかってる。あの、検査のこと……
それはまだ、車のダッシュボードに入ったまま。もう捨ててしまおうか。杉本には、うまく検査できなかったとかごまかして……いや、ダメだ。俺の悪い癖だな。面倒なことから、すぐ逃げちまう。ちゃんと、話そう。
「こんにちは、サクラコンサルタントオフィスですけど……」
中村タクシーに行くと、聡子さんじゃなくて、知らない事務員さんが出てきた。
「タクシーチケット、十万円分、お願いします。それと、杉本さん、いらっしゃいますか?」
受付でよそよそしく喋る俺の声を聞いて、中村が奥から出てきてくれた。
「いつもありがとう。助かってるよ」
例の昭和な応接室。中村、俺の事務所はもうすぐ、オシャレになるぜ。
「聡子さん、休みなの?」
「さとちゃん? ああ、実はな……四人目」
「四人目? あ……妊娠ってこと?」
「そういうこと」
なんだよ。杉本め、やるなぁ。
「つわりが酷いらしくて、休みがちでさ。まあ、高齢出産だからなあ」
「聡子さんって、何歳?」
「えーと、一つ下だから、四十?」
「四十でも、生めるんだよなあ」
「そりゃお前、妊娠できれば、生めるだろうよ」
「真純も大丈夫だよな?」
「お、なに、子供、考えてるの?」
「仕事辞めたし、そろそろいいかなって思って」
「まだいけると思うけど、四十超えての初産はきついぞ。さとちゃんは四人目だからさ」
「なんか、違うの?」
「違うらしいよ。それにさあ、考えてみろよ。四十一で生んだ子がハタチになるころには六十一だぜ? お前んとこは金あるからいいけどさ、俺なんてとても無理だ。子供って、すっげー金かかるんだよ」
ふうん……そうなんだ……悪いけど、金の心配は、あんまりないんだよな。それより、真純の体だなぁ。
中村の愚痴をうわの空で聞いていると、杉本が入ってきた。
「じゃ、ちょっと無線してくるわ」
相変わらず、空気が読める中村。いいやつだ、ほんとに。
でも、俺にはあのことが、ずっと引っかかってる。あの、検査のこと……
それはまだ、車のダッシュボードに入ったまま。もう捨ててしまおうか。杉本には、うまく検査できなかったとかごまかして……いや、ダメだ。俺の悪い癖だな。面倒なことから、すぐ逃げちまう。ちゃんと、話そう。
「こんにちは、サクラコンサルタントオフィスですけど……」
中村タクシーに行くと、聡子さんじゃなくて、知らない事務員さんが出てきた。
「タクシーチケット、十万円分、お願いします。それと、杉本さん、いらっしゃいますか?」
受付でよそよそしく喋る俺の声を聞いて、中村が奥から出てきてくれた。
「いつもありがとう。助かってるよ」
例の昭和な応接室。中村、俺の事務所はもうすぐ、オシャレになるぜ。
「聡子さん、休みなの?」
「さとちゃん? ああ、実はな……四人目」
「四人目? あ……妊娠ってこと?」
「そういうこと」
なんだよ。杉本め、やるなぁ。
「つわりが酷いらしくて、休みがちでさ。まあ、高齢出産だからなあ」
「聡子さんって、何歳?」
「えーと、一つ下だから、四十?」
「四十でも、生めるんだよなあ」
「そりゃお前、妊娠できれば、生めるだろうよ」
「真純も大丈夫だよな?」
「お、なに、子供、考えてるの?」
「仕事辞めたし、そろそろいいかなって思って」
「まだいけると思うけど、四十超えての初産はきついぞ。さとちゃんは四人目だからさ」
「なんか、違うの?」
「違うらしいよ。それにさあ、考えてみろよ。四十一で生んだ子がハタチになるころには六十一だぜ? お前んとこは金あるからいいけどさ、俺なんてとても無理だ。子供って、すっげー金かかるんだよ」
ふうん……そうなんだ……悪いけど、金の心配は、あんまりないんだよな。それより、真純の体だなぁ。
中村の愚痴をうわの空で聞いていると、杉本が入ってきた。
「じゃ、ちょっと無線してくるわ」
相変わらず、空気が読める中村。いいやつだ、ほんとに。