マネー・ドール -人生の午後-
あれから、初めて会う将吾は、少しやつれたように見える。
「凛が、世話かけたみたいで」
「それはいいんだけど……ちょっと、入って」
でも、将吾は凛ちゃんを見て、声を荒げた。
「凛! ダメやろ! 勝手にこんなことして! さ、帰るぞ!」
将吾の大きな手が、力任せに凜ちゃんの細い腕を引っ張った。
「やだ! パパなんか嫌い!」
「凛!」
「パパが悪いんだもん! パパがママを叩いたから、ママいなくなったんでしょ!」
え? 叩いた?
「子供の言うことやない! 早よ立て!」
「イヤって言ってるもん! ママが帰ってくるまでここにいるもん!」
「ええ加減にせんか!」
大声で怒鳴る将吾の声に、私は息をのんだ。そして……
『バチッ』
鈍い音が、リビングに響いた。
嘘……嘘よね……私、夢を見てるのよね……悪い夢を……これはきっと、私の子供時代の夢よね……
「泣くな!」
でも、はっきりと聞こえた。怒鳴る将吾の声。
そこに蹲っているのは、私じゃなくて……
「泣くなゆうとるやろ!」
「ごめんなさい……パパ……ごめんなさい……」
もう一度、将吾の手が、凛ちゃんに向かった時、私は無意識に、その手を止めていた。
「やめて」
「お前には関係ない! 離せ!」
将吾は私の手を振りほどいて、凜ちゃんの首元を掴んだ。
「子供相手になんてことするの!」
私は必死に、将吾を突き放した。渾身の力で、将吾の大きな体から、凛ちゃんを守った。
「殴らないで!」
母親の殴るあの手の感触が、私の頬に蘇る。ずきずきと、頬が痛む。
そんなはずないのに、まるで、今、殴られたみたいに……痛い……痛いよ……
「凛ちゃんはあずかるわ。もう帰って」
「真純……」
「平気で手を上げるような親のところには返せない!」
「こ、これは、うちの問題や」
「違うわ! 凛ちゃんは悪くないでしょ! なのに、なぜ殴るの! 親の勝手でしょ! そんな親は絶対に許さない!」
「うるさい、どけ!」
「どかないわ! 将吾、どうして? あなたも辛かったでしょ? 子供のころ、辛かったでしょ!」
大声でやり合う私達の横で、凛ちゃんが泣いている。
いけない……傷つけてしまう……
「凛ちゃん、大丈夫? ちょっと、おばさんの部屋にいましょうか。パパとお話しするわ」
腫れた頬に冷たいタオルを当ててあげると、凛ちゃんは、ありがとう、って小さな声で言った。
「凛が悪いの……」
「悪くないのよ。凛ちゃんは全然悪くないの。悪いのは、パパよ」
「凛が、世話かけたみたいで」
「それはいいんだけど……ちょっと、入って」
でも、将吾は凛ちゃんを見て、声を荒げた。
「凛! ダメやろ! 勝手にこんなことして! さ、帰るぞ!」
将吾の大きな手が、力任せに凜ちゃんの細い腕を引っ張った。
「やだ! パパなんか嫌い!」
「凛!」
「パパが悪いんだもん! パパがママを叩いたから、ママいなくなったんでしょ!」
え? 叩いた?
「子供の言うことやない! 早よ立て!」
「イヤって言ってるもん! ママが帰ってくるまでここにいるもん!」
「ええ加減にせんか!」
大声で怒鳴る将吾の声に、私は息をのんだ。そして……
『バチッ』
鈍い音が、リビングに響いた。
嘘……嘘よね……私、夢を見てるのよね……悪い夢を……これはきっと、私の子供時代の夢よね……
「泣くな!」
でも、はっきりと聞こえた。怒鳴る将吾の声。
そこに蹲っているのは、私じゃなくて……
「泣くなゆうとるやろ!」
「ごめんなさい……パパ……ごめんなさい……」
もう一度、将吾の手が、凛ちゃんに向かった時、私は無意識に、その手を止めていた。
「やめて」
「お前には関係ない! 離せ!」
将吾は私の手を振りほどいて、凜ちゃんの首元を掴んだ。
「子供相手になんてことするの!」
私は必死に、将吾を突き放した。渾身の力で、将吾の大きな体から、凛ちゃんを守った。
「殴らないで!」
母親の殴るあの手の感触が、私の頬に蘇る。ずきずきと、頬が痛む。
そんなはずないのに、まるで、今、殴られたみたいに……痛い……痛いよ……
「凛ちゃんはあずかるわ。もう帰って」
「真純……」
「平気で手を上げるような親のところには返せない!」
「こ、これは、うちの問題や」
「違うわ! 凛ちゃんは悪くないでしょ! なのに、なぜ殴るの! 親の勝手でしょ! そんな親は絶対に許さない!」
「うるさい、どけ!」
「どかないわ! 将吾、どうして? あなたも辛かったでしょ? 子供のころ、辛かったでしょ!」
大声でやり合う私達の横で、凛ちゃんが泣いている。
いけない……傷つけてしまう……
「凛ちゃん、大丈夫? ちょっと、おばさんの部屋にいましょうか。パパとお話しするわ」
腫れた頬に冷たいタオルを当ててあげると、凛ちゃんは、ありがとう、って小さな声で言った。
「凛が悪いの……」
「悪くないのよ。凛ちゃんは全然悪くないの。悪いのは、パパよ」