マネー・ドール -人生の午後-
ああ、いけない。買い物行かなきゃ。えーと、何人分? 五人か。しかも中学生の男の子……どれくらい作ればいいのかな。でもまあ、足りないよりは多い方がいいよね。多目に作るか!
すっかり馴染みになったお肉屋さんに行くと、もう合挽きミンチが終わりだって。
「合挽き、終わっちゃった?」
「合挽き? 珍しいね。引いてあげるよ」
「じゃあ、八百」
「八百?」
「うん、お客さんなの。八、二にしてもらおうかな」
「はいよ」
マスターはもう終わりだからって、ちょっとおまけしてくれた。お、重い……お肉がこんなに重いなんて、初めて!
家に帰って、ハンバーグを作っていると、携帯が鳴った。もう、誰? 手がベタベタなのに。
無視しようかと思ったけど……相手は聡子さん。ちょっと緊張して、電話にでると、いつも通り、優しい声が聞こえた。
「真純さん? ご無沙汰してます」
聡子さんとも、あれきりで、私は思わず、言葉に詰まってしまう。
「あの、このたびはご迷惑かけて……」
「そんな……あの、聡子さん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。ちょっとね、目の周りにアザができててね。子供たちには見せられないから……でも余計に心配させてしまって、ほんとに……」
聡子さん、やっぱり、子供たちをほったらかしにしてたわけじゃないんだ! よかった……
「凛と碧のこと、よろしくお願いします。あの、お手伝いさせてね。お客さん扱いしないで、家事でもなんでもさせてね」
「いいのよ、そんなの」
「ワガママ言ったりしたら、叱ってね。特に凛は口が達者だから……」
聡子さん、心配なのね。
「ほんとに、ごめんなさいね……」
「……私のほうこそ……ちゃんと謝らずで……」
「ああ、もうそんなこと忘れてたわ」
聡子さんは、電話の向こうで笑った。
「食費とか、ちゃんとしてくださいね」
……お母さんなんだ……なんか、すごいんだ……
「ねえ、アレルギーとかある?」
「ないない、そんなデリケートには育ってないから。好き嫌いなんて、気にしないで。贅沢言わせないようにしてね」
「うん。ねえ、聡子さん……余計なことかもしれないけど、凛ちゃん、心配してるわ。電話だけでも、してあげてくれない?」
「……そうね。今夜、また電話していいかしら」
「ええ、もちろん。あの……あるんでしょう? その……」
「将吾のことね。……昔からよ。気が立つとね、抑えられないみたい」
「結婚する前から?」
「ええ」
「そんな、酷いわ……今日も、凛ちゃんをね……」
「殴ったんでしょう? さっき、電話で言ってたわ」
「普段からなの?」
「いつもってわけじゃないわ。私もね、悪いのよ。子供たちも聞き分けが……」
「聡子さん、それは違うわ。本当に悪いことをしたなら、それは仕方ないかもしれない。でも、少なくとも、今日は違ったわ。あれは、将吾の身勝手よ。そんなことしてるなんて、私……知らなくて……」
「あなたのことは、殴ったことないの?」
「……うん……だから、ショックで……」
「そう……」
「できることがあれば……何かしたいの。聡子さん、力になれないかしら」
「ありがとう。もう充分にしてもらってるわ。慶太さんにも、よろしく伝えて」
「うん……」
「じゃあ、また夜、電話します。子供たちのこと、よろしくお願いします」
すっかり馴染みになったお肉屋さんに行くと、もう合挽きミンチが終わりだって。
「合挽き、終わっちゃった?」
「合挽き? 珍しいね。引いてあげるよ」
「じゃあ、八百」
「八百?」
「うん、お客さんなの。八、二にしてもらおうかな」
「はいよ」
マスターはもう終わりだからって、ちょっとおまけしてくれた。お、重い……お肉がこんなに重いなんて、初めて!
家に帰って、ハンバーグを作っていると、携帯が鳴った。もう、誰? 手がベタベタなのに。
無視しようかと思ったけど……相手は聡子さん。ちょっと緊張して、電話にでると、いつも通り、優しい声が聞こえた。
「真純さん? ご無沙汰してます」
聡子さんとも、あれきりで、私は思わず、言葉に詰まってしまう。
「あの、このたびはご迷惑かけて……」
「そんな……あの、聡子さん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。ちょっとね、目の周りにアザができててね。子供たちには見せられないから……でも余計に心配させてしまって、ほんとに……」
聡子さん、やっぱり、子供たちをほったらかしにしてたわけじゃないんだ! よかった……
「凛と碧のこと、よろしくお願いします。あの、お手伝いさせてね。お客さん扱いしないで、家事でもなんでもさせてね」
「いいのよ、そんなの」
「ワガママ言ったりしたら、叱ってね。特に凛は口が達者だから……」
聡子さん、心配なのね。
「ほんとに、ごめんなさいね……」
「……私のほうこそ……ちゃんと謝らずで……」
「ああ、もうそんなこと忘れてたわ」
聡子さんは、電話の向こうで笑った。
「食費とか、ちゃんとしてくださいね」
……お母さんなんだ……なんか、すごいんだ……
「ねえ、アレルギーとかある?」
「ないない、そんなデリケートには育ってないから。好き嫌いなんて、気にしないで。贅沢言わせないようにしてね」
「うん。ねえ、聡子さん……余計なことかもしれないけど、凛ちゃん、心配してるわ。電話だけでも、してあげてくれない?」
「……そうね。今夜、また電話していいかしら」
「ええ、もちろん。あの……あるんでしょう? その……」
「将吾のことね。……昔からよ。気が立つとね、抑えられないみたい」
「結婚する前から?」
「ええ」
「そんな、酷いわ……今日も、凛ちゃんをね……」
「殴ったんでしょう? さっき、電話で言ってたわ」
「普段からなの?」
「いつもってわけじゃないわ。私もね、悪いのよ。子供たちも聞き分けが……」
「聡子さん、それは違うわ。本当に悪いことをしたなら、それは仕方ないかもしれない。でも、少なくとも、今日は違ったわ。あれは、将吾の身勝手よ。そんなことしてるなんて、私……知らなくて……」
「あなたのことは、殴ったことないの?」
「……うん……だから、ショックで……」
「そう……」
「できることがあれば……何かしたいの。聡子さん、力になれないかしら」
「ありがとう。もう充分にしてもらってるわ。慶太さんにも、よろしく伝えて」
「うん……」
「じゃあ、また夜、電話します。子供たちのこと、よろしくお願いします」