マネー・ドール -人生の午後-

(2)

 電話を切ると、もう七時前になっていた。早く作らないと、そろそろ来ちゃうよね。
 やっと下ごしらえが終わったころに、将吾が子供たちを連れてきた。凛ちゃんと碧ちゃんは無邪気にソファで遊んで、涼くんは緊張してるのか、黙ってテレビの前に座ってる。
 将吾は荷物を運んだり、子供たちに静かに! って怒鳴ったり。なんだか……家族って感じ……

「お待たせ! できたよ!」
このテーブルの椅子が埋まるなんて、初めて。四人掛けだから、私はキッチンスツールで。
「わあ、すごーい!」
「すっごくキレイ! お店みたいだね!」
「味もお店みたいだったらいいんだけど。さ、食べて、冷めちゃう」
いただきまーす、ってみんなで言って、子供たちがハンバーグを一口食。どう? 美味しい?
「わあ、おいしい!」
「うん、おいしい!」
女の子二人は顔を見合わせて笑ってくれた。
「ほんと? よかった! ねえ、涼くんは?どう?」
「あ、美味しいっす」
「そう! よかったあ。いっぱい食べてね!」
 最初はかたまってた涼くんも、段々表情が緩んで、碧ちゃんの口を拭いたりしてる。へえ、お兄ちゃんなんだ、やっぱり。
「ほら、碧、こぼしとる。凛、拭いてやって」
「はーい。もう、碧、こぼさないで」
「涼くん、ご飯おかわりは?」
「あ、お願いします」
 こんなに賑やかなテーブルは初めてで、嬉しくって、子供たちのおいしそうに食べてくれる顔を眺めるだけで、もうお腹いっぱい。

 そして、隣で、将吾が、私の作った料理を食べている。
二十一年ぶりね……ねえ、将吾、昔はこうしてご飯、食べたね、二人で……
「うまいな、相変わらず」
「そ、そう? よかった」
「真純の飯、何年ぶりかな」

 目の前に広がる光景は、ねえ、もしかしたら、私達の未来だったかもしれないね。こうやって、子供たちと、あなたと、テーブルを囲んで……

「二十一年ね」
「もう、そんなに経つんやなあ」
 いけない……また私は……わかってる。
 この子たちは、将吾と聡子さんの子供たち。私達の未来は……今の私達。

< 164 / 224 >

この作品をシェア

pagetop