マネー・ドール -人生の午後-
 二人を見送ると、彼女たちは急に静かになった。不安な顔で、くっついて、ソファに座ってる。
 本当に、よかったのかしら……ここに来て、よけいに不安になったんじゃ……
「布団、出さなきゃな。押入れにあったよなあ?」
「ああ、うん。多分。でも、乾燥機かけないとダメね。どこに敷こうかしら」
「そうだなあ。じゃあ、三人で寝室で寝なよ」
「慶太は?」
「俺は真純の部屋で寝る。二人だけで寝かせるのは、お互い不安だろ?」
「うん……」
「どうかした?」
「うん、なんか、これでよかったのかなって……」
「あずかって?」
「よけいなことしたかなって……」
「子供だけで夜を過ごさすのもよくないし……離したほうがいいんだよ、少し。中村の話じゃ、聡子さんが流産してから、酷くなってたらしいから。俺もなるべく、早く帰って来るからさ。……でも、掛け布団と毛布は、ださないとな。おーい、ちょっと来てー」
 慶太は娘ちゃん二人に、声をかけた。
「布団出すの、手伝ってよ」
「うん」
「あ、先に言うけど、おじさんの部屋、超汚いから」
「えー! イケメンなのに?」
「そ、イケメンでも部屋はブサメン」
 二人はきゃっきゃって笑って、慶太について行った。
 ふうん、意外に、子供扱うの、うまいんだ。

 洗い物をしてる間も、三人はきゃっきゃっ楽しそうで、なんだか、本当にパパになったみたい。
私も、なんだかそんな気になって、お風呂入りなさーい、なんて言っちゃった。
「お風呂、二人で入れる?」
「入れるよ! 凛はね、髪も自分で洗えるんだよ」
「碧も洗えるもん」
「そうか、すごいじゃん。じゃあ、二人で入れるね。シャワーの使い方、教えてあげるね。パジャマとか、ある?」
「持ってきたよ」
「こっちだよ、着替え、持って来て」
 バスルームから、娘ちゃんたちの声が聞こえる。
「わあー! ひろーい! キレイなお風呂!」
「そう? これがね、シャワー。ここを押すと、お湯が出るからね。それから、これがシャンプーで、これが……リンスかな? で、これが、ボディソープ」
「わかった!」
「洗濯物は、ここに入れてね。じゃあ、ごゆっくり」
 バスルームからは、二人のはしゃぐ声がずっと響いてる。
「あー、なんか疲れた」
「そう? 結構楽しそうに見えるよ?」
「あ、ばれた? かわいいなぁ。女の子はかわいいよな。周りでもさ、娘のほうがかわいいっていうんだよ。なんかわかった気がするよ」
 慶太は今まで見たことない優しい笑顔で、ビールを飲んだ。
「しかしさ、あんなかわいい子に手を上げるなんて、俺は杉本がわかんねえよ」
 
 ……私……怖い……もしかしたら、私も……殴ってしまうかもしれない。

 どうやって叱ればいいかわからない。
 どうやって可愛がればいいのかわからない。

 どうやって母親になればいいのか……私の知ってる母親は、あの、母親だけ……

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