マネー・ドール -人生の午後-

(3)


 あの子たちが、うちに来て二週間。
最初は戸惑うことも多かったけど、もうすっかり慣れちゃった。
彼女たちも、ずいぶん落ち着いてきて、明るくなって、お風呂も一緒に入ったりして、まるで……本当のママになったみたいで、毎日がとっても楽しいの。
 でも、将吾は仕事の都合って言って、時々電話してくるだけ。涼くんが部活帰りに寄ってくれて、一緒にご飯食べるんだけど、とっても寂しそうにするの、子供たち……きっと、それがわかってるから、将吾も来ないんだね……よけいに寂しくなっちゃうから……
 やっぱり、いいパパなんだ。虐待なんて、してないよね。
 だって、私、施設にあの人が来るたびに、死にたいくらいつらかったもの。保護されるたびに、安心して、二度と家に帰りたくないって、いつも思ってたもん。
 きっと、寂しいんだね、この子たち。パパに一緒にいて欲しいんだ。でも、仕事で家を空けるパパが、寂しいんだ……だからきっと、わがままになっちゃう。だから将吾も、うまくいかなくって、焦っちゃう。
 そうだよね……私たち、ちゃんと……親に愛されてこなかったもの。怒鳴られるか、殴られるか、ほったらかしか。親のことなんて、愛してないんだもん……わかんないよね……わかんないんだよ……
 でも……いいわけ。それは大人の勝手ないいわけで、子供たちには、関係ないんだよ……将吾、わかってるんだよね。きっと、あなたも、わかってるよね……

「真純さん?」
 ああ、いけない。打ち合わせ中だったんだ。
「ごめんなさい。ぼーっとしちゃってた。えーと、どこまでいったっけ?」
「アイテムの選定です。それから、クロスなんですけどね……」
 事務所の改装の打ち合わせはだいぶ進んで、デザインも決まったし、あとは細々したアイテムの設定だけ。
 うん? 凛ちゃんから電話? え? 今、何時!
「ごめんなさい、おばさん、ちょっとお仕事してて……すぐに行くね」
 気がつくと、もう五時前。急がなきゃ! 
「ごめん、田山くん。もう出なきゃいけないの」
「お約束ですか? では、また後日改めて。カタログ、もう少し持ってきますね」
 しまった……今日、車じゃなかったんだ! 朝、ガソリンがなかったから……どうしよう。慶太もいないし、こんな時に限って、車、出払ってるじゃん!
「ねえ、田山くん。この後、予定ある?」
「いえ、特に。この打ち合わせで終わりです」
「じゃあ、悪いんだけど、送ってもらえない?」
「かまいませんよ。どちらまで?」

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