マネー・ドール -人生の午後-

(5)

 今日は、日曜日。十二月に入って、すっかり寒くなった。
「五時くらいまでには帰ってくるから、待っててね。何かあったら、すぐに電話してね」
 はーい、と二人は言って、ホットカーペットの上でゴロゴロしてる。

 冬物の上着を取りに行くって言ったけど、本当は……

 病室には、顔と、体に包帯を巻いた、聡子さんが眠っている。
 ひどい怪我だったんだ……こんなことに、なるなんて……きっと、私のせいなのよね……私の……
 よく眠ってるし、わざわざ起こすのもね。また、来ればいいかな……
 お花を置いて、病室を出ると、そこには、将吾がいた。

「真純……来てくれたんか」
「うん。でも、眠ってたから……」
「ちょっと、ええか」

 私達は、近くの喫茶店へ。コーヒーを注文して、将吾は、重く、口を開く。
「子供ら、どうしとる」
「元気にしてるわ。でも……やっぱり、寂しいのよ。ふとした時に、悲しい顔をするの。私や慶太に、気を使ってるのね……あんなに小さいのにね……」
 俯く将吾は、ずいぶん、痩せていた。
 なんだか白髪も増えて、目元にもシワが増えた気がする。
「カウンセリング、受けてるの?」
「仕事が忙しくてな……なかなか……」
 仕事……大切なことだけど……将吾、それだけじゃあ、ないのよ……あなたにとって一番大切なものは、お金なんかじゃ、買えないんだよ……

「大怪我やった」
「そうね……」
「覚えてないんや……なんも、覚えてない」
「お酒を?」
「少しな……でも、酒のせいやない……聡子を見てるとな……どうしても、お前のことを、思い出してしまう。喧嘩した時は、よけいに、お前の顔が……よぎるんや」
 将吾の、左手の指輪。私の、左手の指輪。
 私達には、私達のパートナーがいて、私達は、他人。他人でなきゃ、いけない。
「あの日……お前の家にいった日からな……俺は、お前のことを思い出してしもうた。昔、聡子とつきあい始めた時みたいにな、お前のことを……」
「私のせいね……」
「真純……俺は……どうしたらええ」

 どうしたら……どうしたらいいの? 私達、どうしたら……
 私は、どうしたら……
 
 どうすればいいのかは、わからない。
 でも、選んじゃいけない答えだけは……わかってる。
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