マネー・ドール -人生の午後-
「どう、したいの?」
「わからん……もう、わからんのや……」
「私達……兄妹、なのよね?」
 それが、最後だった。
 最後の、いいわけ。
 私達が、最悪の道を選ばないための、最後のいいわけだった。

「違う」
「違う? でも、あの人も、可能性はあるって……」
 私の言葉に、将吾ははっとしたように、口を噤む。
「そうやな……」
「どういうことなの? ねえ、将吾、何かあるの?」
 何かある。将吾は、何か、私に隠してる。
「兄妹じゃ、ないの?」
「……検査を……」
「検査? 検査って何? ねえ、何なの?」
 顔を上げた将吾は、何かを決意したように、私に向き直った。そして、強い目で、私を見る。
「DNA検査で、俺らは他人やって、確定した」
「DNA検査? 何なのそれ! そんなこと知らないわ!」
思わず荒げた声に、ちらちらと、周りの人が見る。
「たぶん、佐倉も必死やったんや。必死で、お前をつなぎとめようとしてた。でも……」
「ちょっと待って。なんのことなの? なんでそこに慶太がでてくるわけ?」
「……検査を、してくれと頼まれてな」
「いつ?」
「あの、あの時や……お前が、聡子を……いや、俺と、部屋で……あいつ、その前からな、俺のことを、お前が思い出して、つらい顔をするのが、見てられんって、そう言うとった。だから、兄妹ってことが、本当に証明されたら、それで、真純も、俺のことを忘れられると思ったんやろう。それに、俺も……俺らのことを、離せると、思ったんやろう……」 
 そんなこと……知らなかった。慶太が勝手に、そんなこと……

「あいつは悪くない。悪いのは……」
「私ね」
「真純……俺は……お前がほんまにな……好きやったんや……でも、佐倉もな……」
 
 もう、このままじゃ、いられない。
 
 私が選ぶのは……選ばなきゃいけないのは……
 そして、将吾が選ばなきゃいけないのは……

「将吾、私のこと、好き?」
「……好きや。真純、やっぱり、俺にはお前しかおらん」
「じゃあ、私を選んで。何もかも捨てて、私を、選んで。ねえ、覚悟があるんでしょう? 私を選ぶってことは、どういうことか、わかってるよね?」

 将吾。
 将吾……違うでしょう?
 あなた、私のことなんてね、本当はもう、好きじゃないんだよ。
 
 私達は、あの頃の私達の、幻を見てるだけ。
 私も、あなたも、ね。

「来て」
 
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