マネー・ドール -人生の午後-
「どうしたの、浮かない顔して」
親父の事務所の帰り、松永さんが運転席で、俺の顔をちらりと見た。
松永さんの車は、昔、俺が散財を繰り返したあのセルシオで、もう二十年以上乗ってるのか……すげえなぁ。
「ちょっと、面倒な案件が……」
ああ、もしかして、松永さんなら、あいつのこと知ってるかな。
「三好って、知ってますか。今は広島で県議やってるんですけど、昔、親父の事務所にいたらしいんですよ」
「三好……ああ、覚えてるよ。なかなか、やり手だったなあ。大学が東京で、五年ほどうちで事務をやって、広島に帰ってからあっさり通った。しばらくはちょくちょく、うちに来てたけど、もう何年も顔見てないな」
「次の地方選で、知事に出るそうです」
「へえ、そう。やり手だったけど……素行がちょっと悪くてね。実質、クビだったんだ。三好くんが、どうかしたの」
どうしよう……松永さんには……言うべきだよな……だって、親戚になるわけだし……
「真純のお母さんと結婚するらしいんです」
松永さんは、予想通り、表情を曇らせた。
「児童買春の過去があるようで……清算したいと……」
「いくら持ってきたの」
「十本です」
「受け取ったの?」
「真純のことを……その……噂にするって……だから俺、断れなくて……」
「まさか、真純ちゃんの過去のこと? その相手が?」
「……真純のお母さん、金を……」
俺の言葉を遮るように、路肩に寄って松永さんは急ブレーキを踏んだ。
「なんてことをしたんだ! 君らしくない!」
「すみません……でも、どうしても……俺……真純が傷ついたら……真純も、完全な一般人ってわけじゃないし、どうしたらいいか……」
「断るべきだった」
「……そうですよね……」
松永さんは舌打ちをして、深いため息をついた。
「たかられるぞ、これからも。先生にご迷惑がかかることになる。それより、真純ちゃんが心配だ」
「どうしたらいいですか」
「……最悪、離婚だな」
そんな……
「先生は、反対だった。君たちの結婚に」
「わかってます」
「僕は君を見誤ったようだ」
松永さんは、冷たい目で俺を見た。まるで、親父や兄貴のように……俺は、ついに松永さんにまで、見放されたのか……
「一度受け取ってしまったものは、もう仕方がない。なんとしてでも、当選させるんだ」
情けないな、俺は……この歳になってもまだ、松永さんにケツ拭いてもらわなきゃいけない。
親父の事務所の帰り、松永さんが運転席で、俺の顔をちらりと見た。
松永さんの車は、昔、俺が散財を繰り返したあのセルシオで、もう二十年以上乗ってるのか……すげえなぁ。
「ちょっと、面倒な案件が……」
ああ、もしかして、松永さんなら、あいつのこと知ってるかな。
「三好って、知ってますか。今は広島で県議やってるんですけど、昔、親父の事務所にいたらしいんですよ」
「三好……ああ、覚えてるよ。なかなか、やり手だったなあ。大学が東京で、五年ほどうちで事務をやって、広島に帰ってからあっさり通った。しばらくはちょくちょく、うちに来てたけど、もう何年も顔見てないな」
「次の地方選で、知事に出るそうです」
「へえ、そう。やり手だったけど……素行がちょっと悪くてね。実質、クビだったんだ。三好くんが、どうかしたの」
どうしよう……松永さんには……言うべきだよな……だって、親戚になるわけだし……
「真純のお母さんと結婚するらしいんです」
松永さんは、予想通り、表情を曇らせた。
「児童買春の過去があるようで……清算したいと……」
「いくら持ってきたの」
「十本です」
「受け取ったの?」
「真純のことを……その……噂にするって……だから俺、断れなくて……」
「まさか、真純ちゃんの過去のこと? その相手が?」
「……真純のお母さん、金を……」
俺の言葉を遮るように、路肩に寄って松永さんは急ブレーキを踏んだ。
「なんてことをしたんだ! 君らしくない!」
「すみません……でも、どうしても……俺……真純が傷ついたら……真純も、完全な一般人ってわけじゃないし、どうしたらいいか……」
「断るべきだった」
「……そうですよね……」
松永さんは舌打ちをして、深いため息をついた。
「たかられるぞ、これからも。先生にご迷惑がかかることになる。それより、真純ちゃんが心配だ」
「どうしたらいいですか」
「……最悪、離婚だな」
そんな……
「先生は、反対だった。君たちの結婚に」
「わかってます」
「僕は君を見誤ったようだ」
松永さんは、冷たい目で俺を見た。まるで、親父や兄貴のように……俺は、ついに松永さんにまで、見放されたのか……
「一度受け取ってしまったものは、もう仕方がない。なんとしてでも、当選させるんだ」
情けないな、俺は……この歳になってもまだ、松永さんにケツ拭いてもらわなきゃいけない。