マネー・ドール -人生の午後-
「会計の仕事ね、難しいけど、好きなの。企画の仕事してたときも、原価計算とか企画書書いてるのが好きだったし、広報よりも、楽しかった。自分で答えを出せるお仕事のほうが、好きなのかな」
「地味な仕事だから、つまらないんじゃないかと思ってたよ」
「そんなことないよ。ただ、難しいの。みんなに教えてもらわないと、できないことたくさんあるし、足引っ張ってるかなって……役に立ててないんじゃないかって……おまけに雑誌の仕事して、中途半端になってしまって、迷惑じゃないかって……」
「充分、戦力だよ。モデル、本格的にやるなら、他に誰か雇わないとって思ってたから。真純の穴、埋めるためにさ。それくらい、真純は事務所にとって大きくなってるよ」
「本当? 私、慶太の役に立ててる?」
「当たり前じゃん。正直、こんなに仕事できるとは、思ってなかったよ。相田より、よほど戦力だ」
真純は、嬉しそうに笑った。屈託無く、本当に嬉しそうに……
「税理士、勉強しよっかな」
「俺が教えてあげる。そしたら、一発合格だ」
「相田くんにも教えてあげなよ」
「ヤロウに教えるほど、俺はヒマじゃないの」
俺は真純の涙を拭って、変態の手紙の入った紙袋を丸めた。
「捨てとくね。兄貴の件も、断っとく」
「いいの?」
「いいんだよ。他にいくらでも、いるから。そもそもあんな奴が国会議員になったら、この国も終わりだよ」
兄貴は、ずっと、真純をバカにしていた。真純の素性を知って、ずっとバカにして、蔑んで来たくせに……
俺が守ってやらないといけないのに、俺が追い詰めてどうすんだ。
「でも、お料理のお仕事だけはしてもいい? すごく、楽しいの」
「構わないよ。真純が負担に思ってないなら、がんばりなよ。俺も試食がんばるから」
「試食がんばるって、何!」
俺たちは、笑った。
真純の目はもう、寂しそうじゃなくって、新しいレシピを見せてくれるその目は、本当に楽しそうで、なんとなく、わかった気がする。
真純のこと、なんとなく……やっと、わかり始めた。
真純は、求められたいんだ。誰かに……俺に、求められたい。
「メタボメニューもね、やっぱり、やろっかな」
「あれ? 今、俺の腹見た?」
クスクス笑って、かわいいな。やっぱり、笑ってる真純が好きだ。こうやって、無理な笑顔じゃなくって、作り笑顔じゃない、自然な笑顔が、一番好き。
大切なもの。なんとなく、俺、わかってきた気がするよ、真純。
「一緒に、仕事しよう。がんばってくれよ」
「はい、所長。がんばります」
「地味な仕事だから、つまらないんじゃないかと思ってたよ」
「そんなことないよ。ただ、難しいの。みんなに教えてもらわないと、できないことたくさんあるし、足引っ張ってるかなって……役に立ててないんじゃないかって……おまけに雑誌の仕事して、中途半端になってしまって、迷惑じゃないかって……」
「充分、戦力だよ。モデル、本格的にやるなら、他に誰か雇わないとって思ってたから。真純の穴、埋めるためにさ。それくらい、真純は事務所にとって大きくなってるよ」
「本当? 私、慶太の役に立ててる?」
「当たり前じゃん。正直、こんなに仕事できるとは、思ってなかったよ。相田より、よほど戦力だ」
真純は、嬉しそうに笑った。屈託無く、本当に嬉しそうに……
「税理士、勉強しよっかな」
「俺が教えてあげる。そしたら、一発合格だ」
「相田くんにも教えてあげなよ」
「ヤロウに教えるほど、俺はヒマじゃないの」
俺は真純の涙を拭って、変態の手紙の入った紙袋を丸めた。
「捨てとくね。兄貴の件も、断っとく」
「いいの?」
「いいんだよ。他にいくらでも、いるから。そもそもあんな奴が国会議員になったら、この国も終わりだよ」
兄貴は、ずっと、真純をバカにしていた。真純の素性を知って、ずっとバカにして、蔑んで来たくせに……
俺が守ってやらないといけないのに、俺が追い詰めてどうすんだ。
「でも、お料理のお仕事だけはしてもいい? すごく、楽しいの」
「構わないよ。真純が負担に思ってないなら、がんばりなよ。俺も試食がんばるから」
「試食がんばるって、何!」
俺たちは、笑った。
真純の目はもう、寂しそうじゃなくって、新しいレシピを見せてくれるその目は、本当に楽しそうで、なんとなく、わかった気がする。
真純のこと、なんとなく……やっと、わかり始めた。
真純は、求められたいんだ。誰かに……俺に、求められたい。
「メタボメニューもね、やっぱり、やろっかな」
「あれ? 今、俺の腹見た?」
クスクス笑って、かわいいな。やっぱり、笑ってる真純が好きだ。こうやって、無理な笑顔じゃなくって、作り笑顔じゃない、自然な笑顔が、一番好き。
大切なもの。なんとなく、俺、わかってきた気がするよ、真純。
「一緒に、仕事しよう。がんばってくれよ」
「はい、所長。がんばります」