マネー・ドール -人生の午後-
 おととい入れたばかりのガソリンが、もうなくなっている。なんて燃費が悪いんだ。いちいちガソリンスタンドに行くのも、本当にめんどくさい。
 住宅街に入ると、ベランダに洗濯物が干してある。うちは洗濯物は干せない。乾燥機か、クリーニング。太陽で乾いた洗濯物なんて、もう何年も着ていない。ああやって、太陽に晒せば、乾燥機もクリーニングもいらないのに。

 本当に大切なもの。
 真純、俺達は、見失っていたか? いや、見失っていたのは……この俺か……
 でも、真純、俺は、やっぱり、俺の正義を、貫こうと思う。
 それで、皆が不幸になって、松永さんが……喜ぶのか?
 松永さんは、なぜ、死んだんだろう。なぜ、何もかもを背負って……松永さんはそんなに弱い人じゃない。追い詰められて、逃げるような、俺みたいな弱い人間じゃない。

 なぜですか、松永さん。俺、わかんないんですよ。なぜ、俺と真純を置いて、いってしまったんですか。これから、やっと、恩返しができたのに。
 松永さん。
 俺はどうすればいいんですか。教えてください。
 松永さん……俺はこれから、どうやって生きて行けばいいんですか……恥じない生き方って、どんな生き方なんですか。また生きたいと思える人生って、どんな人生なんですか。
 そして……俺は本当に、真純を離してしまって、いいんですか。俺、本当に、真純を愛してるんです。でも……

 真純の幸せって、なんなんだろう。真純の不幸って、なんなんだろう。わからない。
 松永さん、なぜ真純は、あなたのことをあんなに信頼してたんですか。
 なあ、杉本、教えてくれよ。真純は、貧乏が嫌なんだよな? 金持ちになりたかったんだよな? 
 田山、なんでお前はそんな自信満々に、幸せにできる、なんて言えるんだよ。お前は、そんなに稼ぐ自信があるのか? 真純を何不自由なく、真純が欲しがるものを、なんでも買ってやれるのか?

 わからない。
 真純、ごめん。俺、まだ、わかんねえよ。また、逃げたよな、俺……真純……ごめんな……


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