マネー・ドール -人生の午後-
 そして、金曜日になった。
 あれから、真純とはもう会っていない。電話も、メールも、していない。
 俺は燃費の悪いベンツに乗って、普通に仕事をして、一人きりの部屋は、その間に、普通に森崎さんが掃除をしてくれている。
 
「昼、行ってきます」
 藤木と相田が、そういって、出て行った。山内はデスクで、嫁さんの作った弁当を広げている。

 十二時十五分。
 真純の飛行機の出発の時間だ。
 空には飛行機がひっきりなしに飛んでいる。どれかに真純は乗っている。田山と、新しい場所へ、新しい生活へ、真純は、飛び立って行った。

「真純さんの飛行機、無事離陸したみたいですね」
「そうか」
「……本当に、これでよかったんですか」

 これでいい。もう、これでいいんだ。

 さよなら、真純。幸せにな。

「いいんだ」
「そうですか」
 山内はパソコンの画面から目を離し、弁当を食べ始めた。

「山内、お前に、話がある」

 そして俺は、告発の準備を始める。
 恥じない生き方をするために、俺はこの生き方を、選ぶ。
 
 でも、もう俺は、この人生を二度と生きない。
 こんな悲しい結末なら、俺は、この俺の人生を、もう二度と、選ばない。
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