マネー・ドール -人生の午後-
誰もいないリビングは、変わらず、きれいに掃除されていたけど、冷え切っていて、まるであの頃に戻ってしまったみたい。
午後三時半。お買い物でもいこうかな。冷蔵庫の中のものは、もうたぶん、処分されちゃってるよね。
何を作ろう。寒いし……きっと、慶太なら、こう言うよね。
寒いから、あったかいもの、って。で、私はこう言うの。じゃあ、シチューね、って。
ひと月ぶりのスーパーも、お肉屋さんも、何も変わっていない。当たり前よね。私も、何も変わっていないもん。松永さんのおかげで、私も、何も変わっていない。
「バラ肉、五百、おねがい」
「おや、奥さん、久しぶり! シチューかい?」
「うん、こんなに寒い日は、やっぱりシチューよね」
午後九時。お腹すいたなあ。慶太、まだ帰ってこないのかな。
あ、鍵が開いた! びっくりするかな? それとも、怒られちゃうかな。でもいいの。私の選択は、きっと、間違ってない。
私ね、あなたとしかね、生きられないの。あなたがいない人生なんてね、もう、意味ないんだ。
「おかえりなさい」
「どう……して?」
「何が?」
「だって、今日……」
「今日? シチューだよ。寒いから、あったかいものがいいでしょ?」
「そっか……シチューか……シチュー……」
慶太ったら、ナキムシね。また泣いてる。
「もう、早く。お腹すいてるの、私」
「そう……そう……俺も……腹減ってる……」
って、私も……涙が、止まらない……
「待ってたんだからね」
「……そっか……遅く、なってごめんな……真純……ただいま……ただいま……」
慶太のトレンチコートは冷たくて、でも、慶太の体はあったかくて、私たちは、私たちを確かめ合った。
「さあ、ご飯、食べようよ」
「そうだね。着替えてくるよ」
私たちは、二人でシチューを食べて、二人でお風呂に入って、二人でベッドに入る。
すっかり当たり前になっていたことが、当たり前じゃなかった。
慶太、私、あなたと離れてみてね、わかったんだ。
私ね、私の幸せはね……私の本当に欲しかったものはね……
午後三時半。お買い物でもいこうかな。冷蔵庫の中のものは、もうたぶん、処分されちゃってるよね。
何を作ろう。寒いし……きっと、慶太なら、こう言うよね。
寒いから、あったかいもの、って。で、私はこう言うの。じゃあ、シチューね、って。
ひと月ぶりのスーパーも、お肉屋さんも、何も変わっていない。当たり前よね。私も、何も変わっていないもん。松永さんのおかげで、私も、何も変わっていない。
「バラ肉、五百、おねがい」
「おや、奥さん、久しぶり! シチューかい?」
「うん、こんなに寒い日は、やっぱりシチューよね」
午後九時。お腹すいたなあ。慶太、まだ帰ってこないのかな。
あ、鍵が開いた! びっくりするかな? それとも、怒られちゃうかな。でもいいの。私の選択は、きっと、間違ってない。
私ね、あなたとしかね、生きられないの。あなたがいない人生なんてね、もう、意味ないんだ。
「おかえりなさい」
「どう……して?」
「何が?」
「だって、今日……」
「今日? シチューだよ。寒いから、あったかいものがいいでしょ?」
「そっか……シチューか……シチュー……」
慶太ったら、ナキムシね。また泣いてる。
「もう、早く。お腹すいてるの、私」
「そう……そう……俺も……腹減ってる……」
って、私も……涙が、止まらない……
「待ってたんだからね」
「……そっか……遅く、なってごめんな……真純……ただいま……ただいま……」
慶太のトレンチコートは冷たくて、でも、慶太の体はあったかくて、私たちは、私たちを確かめ合った。
「さあ、ご飯、食べようよ」
「そうだね。着替えてくるよ」
私たちは、二人でシチューを食べて、二人でお風呂に入って、二人でベッドに入る。
すっかり当たり前になっていたことが、当たり前じゃなかった。
慶太、私、あなたと離れてみてね、わかったんだ。
私ね、私の幸せはね……私の本当に欲しかったものはね……