マネー・ドール -人生の午後-
 私は、ベッドを抜けて、寝室を出て、自分の部屋のドアを閉めた。
デスクの上の携帯には、何件か不在着信があって、将吾と、多分、広島の病院から。

 ふざけないで。
何が母親よ……母親らしいこと、一度だってしたことないくせに……なのに、子供は親の面倒みなきゃいけないの?
冗談じゃない。
冗談じゃないわ!

「門田純子の身内のものですが」
「娘さんですか?」
「生物学上は」
「おこしになれますか? 危険な状態で……」
「無理です。そちらにお任せします。延命措置はいりません」
「門田さん……」
「死んだら、連絡ください。ご迷惑はおかけしませんから」
 電話の向こうで、何か言ってたみたいだけど、もう知らない。
早く死ねばいいのよ、あんな、ゴミみたいなオンナ。
もう一度、病院からコールがあったけど、もう話す気はない。そのまま、電源を切った。

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