マネー・ドール -人生の午後-
気がつくと、慶太の手に、ハンカチがあった。
私はまた、知らない間に、泣いていた。
「ありがとう」
ハンカチを受け取った私を、慶太は抱き寄せて、髪にキスをする。
「ごめんな、わかってやれなくて」
そんなんじゃ、ないの……もう、そんなこと、どうだっていい。
私がつらいのは……あなたの優しさ……
「私のこと、好き?」
「好きだよ」
約束通り、何度聞いても、慶太は、何度も、優しく答えてくれる。
「大好きだよ」
慶太はキスしようとしたけど、通路の向こう人がチラチラ見てたから、ちょっと恥ずかしそうにして、「キスしていい?」って、耳元で聞いた。
「……うん」
私達は、軽く唇を合わせて、二人で微笑みあった。
「見られたかな」
「たぶん」
幸せなのに……こんなに、私は彼に愛されてて、私も彼を愛してる。
でも、私の心は埋まらない。いつまでも、他の男の人に、心を揺さぶられている。
いつまでも、どうしようもない、過去から逃れられない。
窓の外は、いつの間にか夜になっていた。外の景色は、ネオンと暗闇を繰り返す。
「寒い?」
私の体はまた、震え始めていた。
「冷房、きついな。ブランケット、もらおうか」
「いい」
ブランケットをもらっても、きっと、変わらない。
寒いのは、冷房のせいじゃない。
慶太がジャケットをかけてくれた。
いつもの香水の匂いと、ちょっと、男の人の匂い。慶太の匂い。慶太の匂い。慶太の……匂い。
そばにいる。慶太は私のそばにいてくれる。ジャケットの下で、私の手を握ってる。心配そうな目で、私を見つめてる。
「愛してるから、何があっても」
そして、車内アナウンスが流れる。
「まもなく、広島駅に到着します。お降りの方は、お忘れ物のないよう、ご注意ください。乗り換えのご案内をいたします……」
ホームに入って、ゆっくりと止まって、ドアが開いた。
「ひろしま~ ひろしま~」
私は、ホームに降りた。ホームに降りたその足は、フェラガモのハイヒールで、穴も、汚れも、ない。
二十二年ぶりのその場所は、蒸し暑くて、人が多くて、でも、私は、震えている。
私は、十八の私に、戻っていく。
私はまた、知らない間に、泣いていた。
「ありがとう」
ハンカチを受け取った私を、慶太は抱き寄せて、髪にキスをする。
「ごめんな、わかってやれなくて」
そんなんじゃ、ないの……もう、そんなこと、どうだっていい。
私がつらいのは……あなたの優しさ……
「私のこと、好き?」
「好きだよ」
約束通り、何度聞いても、慶太は、何度も、優しく答えてくれる。
「大好きだよ」
慶太はキスしようとしたけど、通路の向こう人がチラチラ見てたから、ちょっと恥ずかしそうにして、「キスしていい?」って、耳元で聞いた。
「……うん」
私達は、軽く唇を合わせて、二人で微笑みあった。
「見られたかな」
「たぶん」
幸せなのに……こんなに、私は彼に愛されてて、私も彼を愛してる。
でも、私の心は埋まらない。いつまでも、他の男の人に、心を揺さぶられている。
いつまでも、どうしようもない、過去から逃れられない。
窓の外は、いつの間にか夜になっていた。外の景色は、ネオンと暗闇を繰り返す。
「寒い?」
私の体はまた、震え始めていた。
「冷房、きついな。ブランケット、もらおうか」
「いい」
ブランケットをもらっても、きっと、変わらない。
寒いのは、冷房のせいじゃない。
慶太がジャケットをかけてくれた。
いつもの香水の匂いと、ちょっと、男の人の匂い。慶太の匂い。慶太の匂い。慶太の……匂い。
そばにいる。慶太は私のそばにいてくれる。ジャケットの下で、私の手を握ってる。心配そうな目で、私を見つめてる。
「愛してるから、何があっても」
そして、車内アナウンスが流れる。
「まもなく、広島駅に到着します。お降りの方は、お忘れ物のないよう、ご注意ください。乗り換えのご案内をいたします……」
ホームに入って、ゆっくりと止まって、ドアが開いた。
「ひろしま~ ひろしま~」
私は、ホームに降りた。ホームに降りたその足は、フェラガモのハイヒールで、穴も、汚れも、ない。
二十二年ぶりのその場所は、蒸し暑くて、人が多くて、でも、私は、震えている。
私は、十八の私に、戻っていく。