マネー・ドール -人生の午後-
今夜は、ツインの部屋だから、シングルベッドが二つ。
「ねえ」
「うん?」
「私のこと、好き?」
「好きだよ」
「そっち、いっていい?」
「もちろん」
「ちょっと、狭いね」
「狭い方が、いいじゃん」
最初は布団が一組しか買えなくて、二人で一緒に寝たっけ。
将吾は体が大きいから、ほんと、狭かった。
春先から暮らし始めて、秋口に、もう一組、布団、買ったけど、暖房がないから、寒くて、結局、一緒の布団で眠ったね。
だって、将吾の体は、大きくて、あったかくて……何より、安心できた。
将吾の胸の中だと、なぜだか……過去を忘れることができた。
薄い、固い布団。でも、あったかかった。
それまでの十八年間で一番、あったかい布団だった。
「ねむれない?」
慶太の唇が、私の耳に触れた。
「うん」
摺り寄せたカラダをつつむのは、慶太の細いカラダ。
「……そんなことしたら、したくなるじゃん」
唇が、おでこに軽く触れて、あ……ふとももに……
「イヤ?」
「ううん……でも……こんな時だからさ……」
「優しいんだね」
「これまでの分、優しくしたいんだ……今まで、出会ってからさ、俺、真純のこと、傷つけてばっかりきたから……」
「……それは、私も同じだよ」
唇。舌。唾液。……見えない。
ねえ……あなたは……誰?
今、私とキスをしているのは……誰?
「ガマン、できないよ」
慶太……そっか……慶太……
あの夜は、三月なのに雪が降って、すごく寒い日だった。
一つしかない布団は、薄い掛け布団だけで、寒がりの私は、寒くて、寒くて、震える私を、将吾は太い腕で抱きしめて、冷えた足先を、自分の足の間で、あっためてくれた。
「まだ、寒いか?」
「……うん。まだ、寒い」
体があったまって、うとうとし始めた私のおでこに、将吾の唇を感じて、顔を上げたら、好きや、って、小声で呟いて、私達は、初めての、キスをした。
あの時、私は、なんて答えたのか、思い出せないけど、たぶん、黙って頷いただけだったと思う。
将吾の気持ちには、前から気がついていたけど、私には、恋とか、そんなの無縁のものだと思っていたから、将吾にも、好きとか、そんな感情、持ってなかった。
そう、昔から私は、好きとか、愛してるとか、そんな感情が欠けていた。
わからなかった。
これが、恋なのか、どうなのか、そんなことすら、わからない、少女だった。
「好き」
「俺も好きだよ」
好き、って言葉を、私は何度も慶太に言う。
将吾には、好きなんて、言わかなかった。
将吾は何度も好きって言ってくれたけど、私は、言わなかった。言えなかった。
「真純」
あったかい肌が、私の肌と絡み合って、優しい愛撫に堕ちていく。
優しい指先と、熱い舌が、私を愛してくれる。
私の上に重なった将吾の唇は、微かに震えていて、それが、寒さからなのか、緊張からなのか、わかんなかったけど、いつもの優しい目は、なんかちょっと怖くて、私は思わず、体を、かたくした。
本気やから、って、将吾は耳元で呟いて、布団の中で、私達は、服を脱いで、お互いの心臓の音が聞こえるくらい、緊張して、一つになろうとしたけど、上手くできなくて、二人で笑った。
十八年間で、初めてってくらい、心の底から、なんか、安心したのを覚えてる。
将吾となら、幸せになれるって、そう思った。……思ったのに……
「……もっと……強くして……」
今、私、誰に言ったの?
ねえ、私、誰に抱かれてるの?
笑ったら、緊張が解けて、その後、私達は本当に、一つになった。
今みたいに、セックスを感じたわけじゃなかったけど、でも、これが、好きってことなんだって、将吾の腕の中で思った。
生まれて初めて、男の人を、ううん、他人を、好きになった。
将吾……私ね……あなたが……
「好き」
「好きだよ……愛してる……真純……」
慶太?
慶太!……私……今……将吾のこと、考えてた……将吾に、抱かれてた……
「ねえ」
「うん?」
「私のこと、好き?」
「好きだよ」
「そっち、いっていい?」
「もちろん」
「ちょっと、狭いね」
「狭い方が、いいじゃん」
最初は布団が一組しか買えなくて、二人で一緒に寝たっけ。
将吾は体が大きいから、ほんと、狭かった。
春先から暮らし始めて、秋口に、もう一組、布団、買ったけど、暖房がないから、寒くて、結局、一緒の布団で眠ったね。
だって、将吾の体は、大きくて、あったかくて……何より、安心できた。
将吾の胸の中だと、なぜだか……過去を忘れることができた。
薄い、固い布団。でも、あったかかった。
それまでの十八年間で一番、あったかい布団だった。
「ねむれない?」
慶太の唇が、私の耳に触れた。
「うん」
摺り寄せたカラダをつつむのは、慶太の細いカラダ。
「……そんなことしたら、したくなるじゃん」
唇が、おでこに軽く触れて、あ……ふとももに……
「イヤ?」
「ううん……でも……こんな時だからさ……」
「優しいんだね」
「これまでの分、優しくしたいんだ……今まで、出会ってからさ、俺、真純のこと、傷つけてばっかりきたから……」
「……それは、私も同じだよ」
唇。舌。唾液。……見えない。
ねえ……あなたは……誰?
今、私とキスをしているのは……誰?
「ガマン、できないよ」
慶太……そっか……慶太……
あの夜は、三月なのに雪が降って、すごく寒い日だった。
一つしかない布団は、薄い掛け布団だけで、寒がりの私は、寒くて、寒くて、震える私を、将吾は太い腕で抱きしめて、冷えた足先を、自分の足の間で、あっためてくれた。
「まだ、寒いか?」
「……うん。まだ、寒い」
体があったまって、うとうとし始めた私のおでこに、将吾の唇を感じて、顔を上げたら、好きや、って、小声で呟いて、私達は、初めての、キスをした。
あの時、私は、なんて答えたのか、思い出せないけど、たぶん、黙って頷いただけだったと思う。
将吾の気持ちには、前から気がついていたけど、私には、恋とか、そんなの無縁のものだと思っていたから、将吾にも、好きとか、そんな感情、持ってなかった。
そう、昔から私は、好きとか、愛してるとか、そんな感情が欠けていた。
わからなかった。
これが、恋なのか、どうなのか、そんなことすら、わからない、少女だった。
「好き」
「俺も好きだよ」
好き、って言葉を、私は何度も慶太に言う。
将吾には、好きなんて、言わかなかった。
将吾は何度も好きって言ってくれたけど、私は、言わなかった。言えなかった。
「真純」
あったかい肌が、私の肌と絡み合って、優しい愛撫に堕ちていく。
優しい指先と、熱い舌が、私を愛してくれる。
私の上に重なった将吾の唇は、微かに震えていて、それが、寒さからなのか、緊張からなのか、わかんなかったけど、いつもの優しい目は、なんかちょっと怖くて、私は思わず、体を、かたくした。
本気やから、って、将吾は耳元で呟いて、布団の中で、私達は、服を脱いで、お互いの心臓の音が聞こえるくらい、緊張して、一つになろうとしたけど、上手くできなくて、二人で笑った。
十八年間で、初めてってくらい、心の底から、なんか、安心したのを覚えてる。
将吾となら、幸せになれるって、そう思った。……思ったのに……
「……もっと……強くして……」
今、私、誰に言ったの?
ねえ、私、誰に抱かれてるの?
笑ったら、緊張が解けて、その後、私達は本当に、一つになった。
今みたいに、セックスを感じたわけじゃなかったけど、でも、これが、好きってことなんだって、将吾の腕の中で思った。
生まれて初めて、男の人を、ううん、他人を、好きになった。
将吾……私ね……あなたが……
「好き」
「好きだよ……愛してる……真純……」
慶太?
慶太!……私……今……将吾のこと、考えてた……将吾に、抱かれてた……