マネー・ドール -人生の午後-
 不意に下腹が痛くなって、トイレに駆け込んだ。
 下着が、血で染まっていた。血……あの人と、同じ血……
「予定外ね……」
 仕方なく、ティッシュを敷いて、トイレを出て、ロビーのコンビニでナプキンと、ショーツを買った。
お腹痛い……後で薬も買おう……

 薬局で鎮痛剤を買って、ロビーで座っていると、慶太から電話がかかってきた。
「どこにいるんだよ」
「ロビー」
「なんでそんなとこに……」
「お腹痛いの」
「え? 大丈夫か? 病院だし、診てもらえよ」
「生理痛」
「え……ああ、そうなのか……とにかく、ロビーに行くから」
 しばらくして、慶太がロビーにやって来た。
たくさんの人の中にいると、慶太は、都会の人で、イケメンで、リッチ。この人が、私の夫。
私は、どんな風に見える? 私も、都会で、美人で、リッチ?
「大丈夫か?」
「うん」
「……お母さんと、なんかあったのか?」
「ねえ、入院費、払わなくていいよ」
「そういうわけにはいかないだろ」
「私、お金送ってるのよ、時々。払えないわけないのよ。あんなにブクブク太って、貧乏なわけない」
「……真純、お母さんの病気なんだけど……」
「心筋梗塞でしょ?」
「今度発作起こしたら、ほんとに……」
「死ねばいいのよ、あんなの」
 ほんとに……死んで。もう、絶対に許せない。あんな人、もう親でもなんでもない。

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