マネー・ドール -人生の午後-
バッグに入れっぱなしだった携帯には、何件かメールが来ていて、ほとんど、田山くんからだった。心配してくれてるみたいで、大丈夫ですか、って、そればかり書いてある。
慶太がお風呂に入ってる間に、田山くんに電話をかけた。
なんとなく、慶太の前だと、田山くんとは話せない。
「ごめんね、明日もう一日、休む」
「お母さん、悪いんですか?」
「ううん……手続きとか、いろいろ手こずってて……」
ああ……また、嘘……
「そうですか。わかりました」
「問題、ないよね?」
その言葉に、彼は、口ごもった。
「何? 何かあったの?」
「実は……野島が……」
「野島くんが、どうしたの?」
「会社を訴えました」
「は?」
「昨日、夕方に、労基から調査員が来て……裁判になるみたいです」
「そんな……どうして連絡くれなかったの?」
「……あの……それが……」
私は、佐倉部長に戻っている。
「なんなの? 田山くん、何があったの? はっきり言って」
「今朝から、その、聞き取り調査が始まってて」
「聞き取り調査?」
「俺たちは、部長からのハラスメントはなかったと断言できますが……」
「な、何それ!」
「……人事部から、その……」
そういうこと。わかった。
「私に、責任を押し付ける気ね。誰?」
「おそらく、野島に裁判を持ちかけたのは、常務です」
やっぱり……あの話を断ったからよね。あの人なら、やりかねないわ。
「箝口令が敷かれてるのね」
「部長の休暇が……向こうにはタイミング良すぎたみたいです」
「向こう、とか、言わないの」
上司として、しっかりしないと。私は、強いの。こんなことで、負けないわ。田山くんに縋ってる場合じゃない。
「部長、大丈夫ですか」
「大丈夫よ。こんなこと、過去に何度もあったから。心配しないで。余計なこと、しちゃダメよ」
「俺……」
「田山くん、私はそんなに弱くないのよ」
でも、本当はね……田山くん……キミは、わかってるんだよね……
私が、ただの、弱くて、意地っ張りで、嘘で固めた人間だってこと。
「……好きです。部長。せめて、一緒に働かせてください」
「うん……じゃあ、とりあえず、明日は休むから。何かあったら、すぐに連絡してね。ムリしないで」
慶太がお風呂に入ってる間に、田山くんに電話をかけた。
なんとなく、慶太の前だと、田山くんとは話せない。
「ごめんね、明日もう一日、休む」
「お母さん、悪いんですか?」
「ううん……手続きとか、いろいろ手こずってて……」
ああ……また、嘘……
「そうですか。わかりました」
「問題、ないよね?」
その言葉に、彼は、口ごもった。
「何? 何かあったの?」
「実は……野島が……」
「野島くんが、どうしたの?」
「会社を訴えました」
「は?」
「昨日、夕方に、労基から調査員が来て……裁判になるみたいです」
「そんな……どうして連絡くれなかったの?」
「……あの……それが……」
私は、佐倉部長に戻っている。
「なんなの? 田山くん、何があったの? はっきり言って」
「今朝から、その、聞き取り調査が始まってて」
「聞き取り調査?」
「俺たちは、部長からのハラスメントはなかったと断言できますが……」
「な、何それ!」
「……人事部から、その……」
そういうこと。わかった。
「私に、責任を押し付ける気ね。誰?」
「おそらく、野島に裁判を持ちかけたのは、常務です」
やっぱり……あの話を断ったからよね。あの人なら、やりかねないわ。
「箝口令が敷かれてるのね」
「部長の休暇が……向こうにはタイミング良すぎたみたいです」
「向こう、とか、言わないの」
上司として、しっかりしないと。私は、強いの。こんなことで、負けないわ。田山くんに縋ってる場合じゃない。
「部長、大丈夫ですか」
「大丈夫よ。こんなこと、過去に何度もあったから。心配しないで。余計なこと、しちゃダメよ」
「俺……」
「田山くん、私はそんなに弱くないのよ」
でも、本当はね……田山くん……キミは、わかってるんだよね……
私が、ただの、弱くて、意地っ張りで、嘘で固めた人間だってこと。
「……好きです。部長。せめて、一緒に働かせてください」
「うん……じゃあ、とりあえず、明日は休むから。何かあったら、すぐに連絡してね。ムリしないで」