マネー・ドール -人生の午後-
 甘えさせてくれないことかな。ううん、甘えられないこと。

 なぜか、慶太には、甘えられない。わだかまりとか、そんなのもちょっとはあるかもしれないけど、慶太の前だと、ちゃんとしてないとって、思う。
 たまにはね、ダラダラしたいの。一日パジャマで、お化粧もしなくて、ゴロゴロ、ダラダラ、してみたい。ベッドで、二人で、ずっと過ごしたり、してみたいの。……なんて、コドモね、私。

「寝ようか」
うん……でも、今夜は……こんなこと、恥ずかしくて、言えない……

「おやすみ」
慶太は、チュッて、唇にキスして、フロアランプを消した。
「おやすみなさい」

 昔、まだ若かった頃、将吾と一緒に暮らしていた頃、私も、将吾も、ほとんど毎晩、お互いを、求め合って、愛し合った。
将吾には、キスしたいとか、エッチしたいとか、全然平気で言えたのに……
 いけない。また将吾のこと考えてる。将吾はもう、素敵な奥さんと結婚して、子供も三人いて、いいパパになってるのに。
好きとか、そんなんじゃない。
ただ……謝りたいの。それだけ。でも、そんなの、自己満足だよね。謝って、誰も幸せにならない。
 誰も、幸せになんか……ならない。

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