マネー・ドール -人生の午後-
真純は居心地が悪そうに、電話をきった。最後の、長い沈黙。俺はそれが気になる。
「心配なんだって、真純のこと」
「かれ、優しいから、ああ見えて」
「田山くんのこと、わかってるんだ」
明らかな、嫉妬。
俺よりも、長い時間、同志として働いてきた二人。もしかしたら、田山は、杉本以上の、強敵なのかもしれない。
田山は、無条件に真純を慕い、支え、信頼し、愛してる。真純は、どうなんだろう。田山のこと、どう思ってるんだろう。本当に、部下としての感情だけなんだろうか。男として、田山を見ていないんだろうか。
「もう、長い付き合いだから」
真純は俯いて、呟くように言った。声が震えている。
「長い付き合い?」
その真純に、俺の感情がついていかない。
「……怒ってるの?」
怒ってる? 怒ってなんかない。ただ、俺は……お前をひとりじめしたいだけなんだよ。
「長い付き合いって、なんだよ」
「慶太……どうしたの?」
その、捨て猫のような目……そんな目で、俺を見るな。そんな怯えた目で、俺を見ないでくれ。
「長い付き合いって、どういうことだよ! 言えよ!」
俺は、真純の腕を掴んで、ベッドに押し倒していた。そして……
「く……苦しい……」
気がつくと、俺の手が、真純の首に……
「ご、ごめん……」
慌てて手を離すと、真純が赤くなった首を押さえて、起き上がった。
「ごめん、真純」
「ううん、いいの。私が悪いの」
真純は大きく息をして、俺に向き直った。
「田山くんね、私のこと、好きって言ってくれるの。でも、慶太に敵わないのはわかってるって。だから、せめて、一緒に働きたいって、言ってくれるの」
「真純は、田山くんのこと、どう思ってるの」
「信頼できる部下で、同志で、優秀な社員だと思ってる」
「それだけ?」
「うん。でも、私、田山くんの気持ちに甘えてしまって……」
「どういう、こと?」
「なんか、逃げ場っていうか……かれの気持ちを知ってて、そんなの、ダメだよね……田山くんね、私のこと、百パーセント、受け止めてくれるの。今回のことも……嫌なら会いに行く必要ないって、言ってくれた。私もね、常識なら、会うべきだって、わかってるの。でも、どうしても……」
そうか……そうなんだ……
真純は……常識とか、そういうことじゃないんだ。
わかってるんだよな。真純は、頭がいいから、全部わかってる。頭でわかってても、心がついていかない。
杉本が言ってたな。本当は、素直で、かわいいやつだって。
素直すぎるから、心が、ついていかない。だから、心を殺してしまう。
俺は、それを受け止めてやらないといけないんだ。わかってやらないと。
俺にはそれができなかった。でも、杉本や田山は、それができる。
甘えられない。
真純がそう言ったのは、きっと、俺のこういうところなんだ。
「俺は……その真純の気持ちを受け止めてやれなかったね……」
「ううん、私が、甘えてるだけなの。居心地をよくしてくれるの、田山くん。会社でも、すごく私をたててくれて、かれの方が優秀なのに。かれのおかげで、私は部長をやれてる。……こうやって、慶太への気持ちに気づかせてくれたのも、かれなの。ほんと、ひどいよね、私……」
なのに、俺はまた、こんなことを言ってしまう。
「田山くんは、真純のこと、本気だよ」
「……かれには、もうしわけないけど……恋愛じゃない……」
それは、きっと真純の本心で、そんなことを言わせる俺は、我ながら、残酷だよな……
「心配なんだって、真純のこと」
「かれ、優しいから、ああ見えて」
「田山くんのこと、わかってるんだ」
明らかな、嫉妬。
俺よりも、長い時間、同志として働いてきた二人。もしかしたら、田山は、杉本以上の、強敵なのかもしれない。
田山は、無条件に真純を慕い、支え、信頼し、愛してる。真純は、どうなんだろう。田山のこと、どう思ってるんだろう。本当に、部下としての感情だけなんだろうか。男として、田山を見ていないんだろうか。
「もう、長い付き合いだから」
真純は俯いて、呟くように言った。声が震えている。
「長い付き合い?」
その真純に、俺の感情がついていかない。
「……怒ってるの?」
怒ってる? 怒ってなんかない。ただ、俺は……お前をひとりじめしたいだけなんだよ。
「長い付き合いって、なんだよ」
「慶太……どうしたの?」
その、捨て猫のような目……そんな目で、俺を見るな。そんな怯えた目で、俺を見ないでくれ。
「長い付き合いって、どういうことだよ! 言えよ!」
俺は、真純の腕を掴んで、ベッドに押し倒していた。そして……
「く……苦しい……」
気がつくと、俺の手が、真純の首に……
「ご、ごめん……」
慌てて手を離すと、真純が赤くなった首を押さえて、起き上がった。
「ごめん、真純」
「ううん、いいの。私が悪いの」
真純は大きく息をして、俺に向き直った。
「田山くんね、私のこと、好きって言ってくれるの。でも、慶太に敵わないのはわかってるって。だから、せめて、一緒に働きたいって、言ってくれるの」
「真純は、田山くんのこと、どう思ってるの」
「信頼できる部下で、同志で、優秀な社員だと思ってる」
「それだけ?」
「うん。でも、私、田山くんの気持ちに甘えてしまって……」
「どういう、こと?」
「なんか、逃げ場っていうか……かれの気持ちを知ってて、そんなの、ダメだよね……田山くんね、私のこと、百パーセント、受け止めてくれるの。今回のことも……嫌なら会いに行く必要ないって、言ってくれた。私もね、常識なら、会うべきだって、わかってるの。でも、どうしても……」
そうか……そうなんだ……
真純は……常識とか、そういうことじゃないんだ。
わかってるんだよな。真純は、頭がいいから、全部わかってる。頭でわかってても、心がついていかない。
杉本が言ってたな。本当は、素直で、かわいいやつだって。
素直すぎるから、心が、ついていかない。だから、心を殺してしまう。
俺は、それを受け止めてやらないといけないんだ。わかってやらないと。
俺にはそれができなかった。でも、杉本や田山は、それができる。
甘えられない。
真純がそう言ったのは、きっと、俺のこういうところなんだ。
「俺は……その真純の気持ちを受け止めてやれなかったね……」
「ううん、私が、甘えてるだけなの。居心地をよくしてくれるの、田山くん。会社でも、すごく私をたててくれて、かれの方が優秀なのに。かれのおかげで、私は部長をやれてる。……こうやって、慶太への気持ちに気づかせてくれたのも、かれなの。ほんと、ひどいよね、私……」
なのに、俺はまた、こんなことを言ってしまう。
「田山くんは、真純のこと、本気だよ」
「……かれには、もうしわけないけど……恋愛じゃない……」
それは、きっと真純の本心で、そんなことを言わせる俺は、我ながら、残酷だよな……