マネー・ドール -人生の午後-
「コミュニケーションが取りづらいっていうか、会話が成立せんこともあったなあ。かわいそうやった。別に、そうなりとうてなったわけやないのにな」
杉本は、遠い目で、自分の煙を追った。
真純が、どんな少女時代を送っていたのか、俺には想像できない。
だって俺は、ずっと裕福で、頭も良くて、何もしなくても、いつもクラスの中心にいた。
友達も多かったし、女の子にはもてたし、先生にも可愛がられて、何の不満もなく、何の不自由もなく、少年時代を過ごしてきた。
「そんな真純に、なんで……惚れたの?」
「なんでかなぁ。なんていうか……俺のものにしたかった、かな」
それ……俺と、同じ……
「俺だけのものにして、俺が守ってやりたかった」
独占欲。支配欲。真純は、それを掻き立てる何かがある。
「こんなこと、ゆうたらあかんのかもしれんけどな……初めて、真純と……」
「うん」
「あの時から、本気で、真純のこと離したくなくなった。まだガキやったけど、死ぬほど、真純に……夢中やったな」
その時の杉本は、今の俺。
今の俺は、死ぬほど真純が好きで、夢中になっている。
「どうして、好きなのかって聞くんだよ」
「自分に、自信がないんやろ」
「それがわからないんだよ。あんなに、その、美人だし、仕事もできて、部下からも信頼あるんだよ。社交的で、どこに連れて行っても、評判よくて……」
俺のその言葉に、杉本は、ふうっと、ため息をついた。
「それは、真純が憧れてた真純やな」
「憧れてた?」
「あいつは、いっつも教室で一人でぽつんと座ってな。お前みたいな、人気者の子を、羨ましそうに見とった。子供にはどうしようもないことで、そうはなれんことを、真純はわかっとった」
「どうしようもないことって……金ってこと?」
「まあ、そうやな。真純は、ほんまに、酷かったからな。金以前の問題やったけど、子供にはどうしようもない」
俺は、過去の二人に嫉妬していた。
俺には、敵わない。この二人の過去を、俺が消し去ることは、できない。
「真純は、子供のまんまなんや」
「え……」
「愛されたい、甘えたい、叱って欲しい、遊んで欲しい……あいつは、今でも、小さな子供のまま。自分の子供見てたら、ようわかる。本当なら、子供のころ満たされるはずだった欲求が、今でも満たされずにおるんやろ」
そうか……だから、なのか。時々、俺は恋愛感情じゃなく、真純を見ている時がある。
親……親の感情……なのかな……
「俺さ……どうすればいいか、わからないんだよ……」
「愛してやれよ」
「愛してるけど、真純には、伝わらない」
「伝わっとるやろ」
「何回も、聞かないと不安だって……好きかどうか、何回も、聞くんだよ、真純」
「鬱陶しいか?」
「そうじゃないよ。ただ、なんでなのかなって……」
「寂しいんちゃうかな。あいつは、いつまでも、寂しい。いつまでも、不安なんや」
これ以上、真純の取扱説明書を聞くことは、もう、堪えれそうにない。
聞けば聞くほど、自分の無力さや、鈍感さや、弱さが、俺に襲いかかってくる。
「受けとめてやってくれ。過去も、今も、未来も、全部な」
杉本はそう言って、せつなく、微笑んだ。
杉本は、遠い目で、自分の煙を追った。
真純が、どんな少女時代を送っていたのか、俺には想像できない。
だって俺は、ずっと裕福で、頭も良くて、何もしなくても、いつもクラスの中心にいた。
友達も多かったし、女の子にはもてたし、先生にも可愛がられて、何の不満もなく、何の不自由もなく、少年時代を過ごしてきた。
「そんな真純に、なんで……惚れたの?」
「なんでかなぁ。なんていうか……俺のものにしたかった、かな」
それ……俺と、同じ……
「俺だけのものにして、俺が守ってやりたかった」
独占欲。支配欲。真純は、それを掻き立てる何かがある。
「こんなこと、ゆうたらあかんのかもしれんけどな……初めて、真純と……」
「うん」
「あの時から、本気で、真純のこと離したくなくなった。まだガキやったけど、死ぬほど、真純に……夢中やったな」
その時の杉本は、今の俺。
今の俺は、死ぬほど真純が好きで、夢中になっている。
「どうして、好きなのかって聞くんだよ」
「自分に、自信がないんやろ」
「それがわからないんだよ。あんなに、その、美人だし、仕事もできて、部下からも信頼あるんだよ。社交的で、どこに連れて行っても、評判よくて……」
俺のその言葉に、杉本は、ふうっと、ため息をついた。
「それは、真純が憧れてた真純やな」
「憧れてた?」
「あいつは、いっつも教室で一人でぽつんと座ってな。お前みたいな、人気者の子を、羨ましそうに見とった。子供にはどうしようもないことで、そうはなれんことを、真純はわかっとった」
「どうしようもないことって……金ってこと?」
「まあ、そうやな。真純は、ほんまに、酷かったからな。金以前の問題やったけど、子供にはどうしようもない」
俺は、過去の二人に嫉妬していた。
俺には、敵わない。この二人の過去を、俺が消し去ることは、できない。
「真純は、子供のまんまなんや」
「え……」
「愛されたい、甘えたい、叱って欲しい、遊んで欲しい……あいつは、今でも、小さな子供のまま。自分の子供見てたら、ようわかる。本当なら、子供のころ満たされるはずだった欲求が、今でも満たされずにおるんやろ」
そうか……だから、なのか。時々、俺は恋愛感情じゃなく、真純を見ている時がある。
親……親の感情……なのかな……
「俺さ……どうすればいいか、わからないんだよ……」
「愛してやれよ」
「愛してるけど、真純には、伝わらない」
「伝わっとるやろ」
「何回も、聞かないと不安だって……好きかどうか、何回も、聞くんだよ、真純」
「鬱陶しいか?」
「そうじゃないよ。ただ、なんでなのかなって……」
「寂しいんちゃうかな。あいつは、いつまでも、寂しい。いつまでも、不安なんや」
これ以上、真純の取扱説明書を聞くことは、もう、堪えれそうにない。
聞けば聞くほど、自分の無力さや、鈍感さや、弱さが、俺に襲いかかってくる。
「受けとめてやってくれ。過去も、今も、未来も、全部な」
杉本はそう言って、せつなく、微笑んだ。