マネー・ドール -人生の午後-
 ふと見ると、ゴミ箱の中に、丸めたティッシュが何枚も入っている。酒のせいかと思ったけど、目も少し腫れている。
 きっと、俺が帰って来るまで、泣いてたんだろう。悔しくて、泣いてたんだ。
 見栄をはる。
 まさしく、今の真純は、そうだった。理不尽な仕打ちに耐え、傷つき、また、心を閉ざすことで、乗り越えようとしている。

「本社に残って、挽回してみせる」
「辞めなよ、もう」
「このまま辞めたら、負けたことになるわ! 負けない。こんなことくらい、どうってことない!」
 真純……いいんだよ、負けても……いや、負けてなんかないんだよ。お前は、誰と闘ってるんだ? お前は、誰に負けたくないんだよ。
「誰に、負けるの?」
「そ、それは……会社とか……」
「そんなの、もういいじゃん。真純の部下の子達は、セクハラなんかしてないって、みんなわかってるだろ?」
「そうだけど……」
「それじゃ、ダメなのか? そもそも、そんなことで真純を左遷するような会社、俺はもうダメだと思うよ。真純は今まで、会社のために、下の子達のために、自分のためにがんばってきた。それはみんな知ってる。それでいいじゃないか」
 もう、お前のそんな顔、見たくないんだよ、俺は……
 楽に、してくれよ。な、真純。もう、いいから。俺、お前の笑った顔、好きなんだ。なあ、真純……笑っててくれよ。
「……すぐには、答え出ない」
「ゆっくり考えなよ。家でゆっくりしてさ」
 受けとめられたかな。なあ、杉本、これで、俺、正解か?
 
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