マネー・ドール -人生の午後-
 その底には、黄ばんだ、白い封筒が入っている。
 中には、手紙が一枚。薄いレポート用紙には、将吾の字が、並んでいた。

『真純へ

幸せにしてやれなくて、本当にごめん。
幸せになれ、今度こそ。お前は、幸せにならないけん。
ずっとつらかったけど、これからは、幸せになれるからな。

でも、俺は、ずっとお前を待ってるから。
もし、佐倉といて、幸せを感じなかったら、いつでも帰って来てくれ。
俺は、真純のこと、ずっと待ってるから。

じゃあな、真純。
お前は、世界一の女じゃけ、自信もって、生きていけな。

愛してる、真純。
これからも、俺は真純の幸せを願っとる。

そして、ずっと、愛してる。

杉本将吾』

 何これ……なんなの……
 胸が、苦しい……吐きそう……
 こんな手紙……将吾……

 携帯の着信音に、我にかえった。ああ、いけない、こんなことしてたら……
「早く終わったから、もう帰るね」
「ま、まだ全然用意できてないよ」
「いいよ。じゃあ、あと一時間くらいで帰るからね」

 ……現実に、戻らないと……

 箱の中のものを戻して、ダンボールを片付けた。
 でも、手紙はパンツのポケットにねじ込んだ。どうしても、この部屋に置いておけなかった。

 結局ノートは見つからなかった。仕方ない、ネットで検索するかな……なんとなく、やってるうちに思い出すかも。

 久しぶりね、こんなに真剣に料理するの。
 別に、家事は嫌いじゃない。どっちかっていうと、好きなほう。いつの間にか、しないのが当たり前になってたけど、これからは、家事、しよっかな。
 でも……
 お肉をオーブンに入れて、私は、ポケットの手紙を読み返した。
 二十歳の青年が書いたとは思えないほど、その手紙は、大人で、悲しい。

 将吾……ねえ、今でも、私を愛してくれてるの?
もし、私が今幸せじゃなかったら、私を受け止めてくれるの?
やっぱり、私達は……兄妹なんかじゃないよね……私達は……
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