マネー・ドール -人生の午後-

(2)

 インターホンが鳴って、ドアが開く。
 また、おかしなこと考えてた。

「ただいまー!」
 ああ、慶太……そうよね。慶太、出迎え、いかなきゃ。

 高そうなスーツに、ブリーフケースを持った慶太は、出迎えた私を、ぎゅっと抱きしめる。
「ただいま、真純」
「おかえり、慶太」
慌てて隠した手紙は、キッチンの引き出しの中。また後で、片付けよう。
「いい匂いだね!」
慶太は嬉しそうにオーブンの中を覗き込んだ。その近くに、あの手紙があって、ちょっと、ハラハラしちゃう。
「上手くできたか、わかんないよ」
「絶対美味しいよ! 着替えてくるね。あー、暑かった!」
 あ、部屋に入ったこと言わなきゃ。
でも、慶太はさっさと部屋へ入っていって、床に丸まってたTシャツとスエットパンツで出てきた。
「ねえ、部屋、入った?」
「うん。ちょっと、探し物したくて」
「ふうん。見つかった?」
「う、うん。あの、勝手に入って、ごめんなさい」
「いいよ、別に。散らかってただろ?」
 そう笑って、ビールを飲み始めた。
「真純、ちょっと」
「何?」
 置いてあったブリーフケースから出てきたのは、ティファニーの紙袋。
「どうしたの?」
「じゃーん、プレゼント。開けてみて」
「プレゼント? なんで? なんかあった?」
「えっ! 今日、そういうことじゃないの?」
 今日? なんだっけ……
 箱の中は、かわいいデザインリングで、ちょっと大きなダイヤの周りに、ルビーが……十五個。合わせて、十六……十六?
「あ……結婚記念日……」
「なんだ、忘れてた?」
だって、十六年、こんなことしたことなかったし……
「てっきり、お祝いかと思ったよ」
「ご、ごめんなさい……」
「いいよ。ね、どう、気に入ってくれた?」
「うん。とっても! ありがとう!」
リングの裏にはイニシャルと『16th』の刻印。きっと、オーダーしてくれたんだよね、これ……
「指輪、して」
 左手の薬指に指輪を通してもらって、私達は、キスを交す。
「真純、これからも、ずっと、夫婦でいような」
「うん。約束、だよ」
 幸せ……私、幸せよね。こんなに、愛されてる。
 将吾……私、幸せ……なんだよね……

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