マネー・ドール -人生の午後-
「枕、冷たいね」
「髪、乾かしてこようかな」
「ダメだよ。ここにいてよ」
慶太は、下に落ちてたバスローブを枕に敷いた。
「今夜は、一瞬も離れたくない」
慶太の顔……近くで見ても、やっぱり、かっこいい。
こんなに素敵な人が、私の夫……こんなに、イケメンで、リッチで、優しい人。
食べるものもなくて、いつも汚ない服を着た、友達もいない、田舎者の私は、もう、いないの?
ねえ、今の私は、キレイで、都会的で、オシャレで、いい女? あなたの言ってた、イケテル女? 私は、あなたにつり合ってる?
「俺、幸せだよ。真純と結婚して、よかった」
空白の時間は、空白。記憶なんてない。だって、何もなかったんだもん。
でも、私達は、ずっと夫婦だった。空白なのに、夫婦だった。夫婦なのに、空白だった。
慶太の唇が、私の唇を包み込んで、あったかい唾液が、伝ってくる。
「真純のも……」
彼の舌が、口の中を刺激して、滲み出る唾液を、舐めとっていく。
私は体の力が抜けて、もう、慶太のままになる。
「私……イケテル?」
「最高だよ」
「慶太に、つり合ってる?」
「俺が、つり合ってないかも」
慶太は、少し笑って、私の顔を押さえて……
「きゃっ……」
目の中に、舌が……
「びっくりした?」
「うん」
「痛くないだろ?」
「でも、怖いよ」
「大丈夫だって」
そう言って、慶太はまた、目の中を舐めた。怖いけど、なんか、不思議な感覚……
ぼやける視界の向こうに、慶太がいる。
「あのさぁ、真純……」
「何?」
「俺……真純の全部が欲しいんだ」
「全部、慶太のものだよ」
「うん……その……全部っていうのは……」
舐めた目から流れた涙を吸い取った。
「涙とか……汗とか……血とか……」
「血?」
「真純の体から出るものも、全部……おかしいよな……」
正直、びっくりしたけど、それだけ私のこと、愛してくれてるってことよね。
「ううん、嬉しい」
「ほんと?」
「うん」
ほっとしたみたいに、嬉しそうに笑って、私の下半身を指で拭って、そこで濡れた指を、彼の口の中に……。
「ちょっと……生々しいよ」
「だって、欲しいから」
私達は、クスクス笑って、もう一度、長い、キスをした。
「月曜、退職届、出しに行くね」
「そうか……」
「会社辞めたら、何しようかな」
慶太は少し考えて、ちょっと仕事の顔になった。
「家にいるのが嫌なら、俺の仕事、手伝ってくれよ」
「えっ……私、会計なんか、わかんないよ」
「そんなの、期待してないよ。会計士ってね、頭はいいんだけど、なんていうか、営業は下手なんだよ。実際、まともに客とやり取りしてるのは俺だけだしね。それに、俺の事務所はコンサルティングで食ってるから、企画とか、プレゼンとかやらないといけないけど、誰もできないんだよ」
「企画は……でも、経営のことなんて、全然……」
「そんなの、すぐ覚えるさ、真純なら。な、一緒に会社、やってくれよ」
「自信、ないな……」
「って、いうのは、半分で、後半分は、真純と一緒にいたいんだ」
「慶太……」
「俺の会社だからね。ちょっとくらい、公私混同もありだろ」
独立して、もうすぐ六年。慶太も必死だったよね。
私のために、ずっと頑張ってくれてる。
そうね、私にできることがあるなら、力になりたい。求められるなら、そこにいたい。
それに……もっと一緒の時間を過ごせば、私達は、あの空白を埋められるよね。
「やってみる」
「ほんと? やった! いつから来れる?」
「うーん、今日は二十日だから……来月からでもいい? ちょっとだけ、ゆっくりさせて。挨拶は、月曜に行こうかな。慶太の事務所、行ったことないし」
「わかった。手続き終わったら、連絡してよ」
「うん。よろしくお願いします、所長」
「やめてくれよ」
慶太は照れくさそうに笑って、私達は、これからのことをいっぱい話した。
新しい生活。
これからの、私達。
やっと、本当の夫婦になれる?
ねえ、私達、これからもっと、幸せになれるよね。もっと、もっと、二人で幸せに、なれるはずだよね。
「髪、乾かしてこようかな」
「ダメだよ。ここにいてよ」
慶太は、下に落ちてたバスローブを枕に敷いた。
「今夜は、一瞬も離れたくない」
慶太の顔……近くで見ても、やっぱり、かっこいい。
こんなに素敵な人が、私の夫……こんなに、イケメンで、リッチで、優しい人。
食べるものもなくて、いつも汚ない服を着た、友達もいない、田舎者の私は、もう、いないの?
ねえ、今の私は、キレイで、都会的で、オシャレで、いい女? あなたの言ってた、イケテル女? 私は、あなたにつり合ってる?
「俺、幸せだよ。真純と結婚して、よかった」
空白の時間は、空白。記憶なんてない。だって、何もなかったんだもん。
でも、私達は、ずっと夫婦だった。空白なのに、夫婦だった。夫婦なのに、空白だった。
慶太の唇が、私の唇を包み込んで、あったかい唾液が、伝ってくる。
「真純のも……」
彼の舌が、口の中を刺激して、滲み出る唾液を、舐めとっていく。
私は体の力が抜けて、もう、慶太のままになる。
「私……イケテル?」
「最高だよ」
「慶太に、つり合ってる?」
「俺が、つり合ってないかも」
慶太は、少し笑って、私の顔を押さえて……
「きゃっ……」
目の中に、舌が……
「びっくりした?」
「うん」
「痛くないだろ?」
「でも、怖いよ」
「大丈夫だって」
そう言って、慶太はまた、目の中を舐めた。怖いけど、なんか、不思議な感覚……
ぼやける視界の向こうに、慶太がいる。
「あのさぁ、真純……」
「何?」
「俺……真純の全部が欲しいんだ」
「全部、慶太のものだよ」
「うん……その……全部っていうのは……」
舐めた目から流れた涙を吸い取った。
「涙とか……汗とか……血とか……」
「血?」
「真純の体から出るものも、全部……おかしいよな……」
正直、びっくりしたけど、それだけ私のこと、愛してくれてるってことよね。
「ううん、嬉しい」
「ほんと?」
「うん」
ほっとしたみたいに、嬉しそうに笑って、私の下半身を指で拭って、そこで濡れた指を、彼の口の中に……。
「ちょっと……生々しいよ」
「だって、欲しいから」
私達は、クスクス笑って、もう一度、長い、キスをした。
「月曜、退職届、出しに行くね」
「そうか……」
「会社辞めたら、何しようかな」
慶太は少し考えて、ちょっと仕事の顔になった。
「家にいるのが嫌なら、俺の仕事、手伝ってくれよ」
「えっ……私、会計なんか、わかんないよ」
「そんなの、期待してないよ。会計士ってね、頭はいいんだけど、なんていうか、営業は下手なんだよ。実際、まともに客とやり取りしてるのは俺だけだしね。それに、俺の事務所はコンサルティングで食ってるから、企画とか、プレゼンとかやらないといけないけど、誰もできないんだよ」
「企画は……でも、経営のことなんて、全然……」
「そんなの、すぐ覚えるさ、真純なら。な、一緒に会社、やってくれよ」
「自信、ないな……」
「って、いうのは、半分で、後半分は、真純と一緒にいたいんだ」
「慶太……」
「俺の会社だからね。ちょっとくらい、公私混同もありだろ」
独立して、もうすぐ六年。慶太も必死だったよね。
私のために、ずっと頑張ってくれてる。
そうね、私にできることがあるなら、力になりたい。求められるなら、そこにいたい。
それに……もっと一緒の時間を過ごせば、私達は、あの空白を埋められるよね。
「やってみる」
「ほんと? やった! いつから来れる?」
「うーん、今日は二十日だから……来月からでもいい? ちょっとだけ、ゆっくりさせて。挨拶は、月曜に行こうかな。慶太の事務所、行ったことないし」
「わかった。手続き終わったら、連絡してよ」
「うん。よろしくお願いします、所長」
「やめてくれよ」
慶太は照れくさそうに笑って、私達は、これからのことをいっぱい話した。
新しい生活。
これからの、私達。
やっと、本当の夫婦になれる?
ねえ、私達、これからもっと、幸せになれるよね。もっと、もっと、二人で幸せに、なれるはずだよね。