君のとなりで
あたしは思わず颯の顔を見てしまうけど当の本人はしれっとした涼しげな顔で前を向き、爽やかな笑顔でお母さんに笑いかけた。

「そっ、颯!あたし、颯に教えてもらいたい数学の問題があるの!部屋に来て!」

このままここにいると、身の危険を感じる。あたしは颯の手を引っ張り、リビングから抜け出した。

「日菜さんってホワホワして見えるけどけっこう鋭いよな。」

そうだよ!お母さんはなかなか侮れないんだから!ちょっと!笑い事じゃないんだからね!

「もう!すっごくヒヤヒヤしたー!」

最後の最後でロマンチックな雰囲気も跡形もなく消えちゃったよ。

「実結、」

ドキドキした心臓を落ち着かせるように深呼吸をしてると急に颯に名前を呼ばれた。

「なに…っ!」

近づく颯の端正な顔、ええー?!この状況で?!リビングにお母さんたちもいるのに!

どうしよう…どうしよう!心の準備ができてないよ!

ええい!ぎゅっと目をつむった。

…あれ?なにもない。

おそるおそる目を開けると、颯が指を差し出した。

「まつげついてたのが目に入りそうだった。ほら。」

へぇぇー…なんかすごく拍子抜け。だってその、キ、キスされるかと思ったんだもん。ああ、恥ずかしすぎる勘違い。
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